「おーう。お前ら。ってもうしんぱっつぁんと左ノは潰れたのかよ」
先程の噂の主が現れた。
何食わぬ顔で立っている。
「土方さん!」
「歳。こっちこい。歳も一緒に飲もう」
「おう。お前暇だろ?酌しろよ」
土方は美海に顎で指示した。
「はい!」
今の土方さんを見ていると、あの話が嘘みたいだ。
近藤さんのために鬼になった土方さん。
私はそんな土方さんでも嫌いじゃないです。
美海はニコリと笑いかけた。
「きめぇ」
「えぇ!?」
軽くショックを受ける。
「え~!美海さんが土方さんにぃ?」
その間にも沖田が不満そうな声を上げる。
土方はピクリと眉を動かし、青筋を浮かべた。【植髮終極指南】如何選擇最佳植髮診所?
わがままな奴め。
「なら自分が酌します!」
市村が立ち上がり、土方の元へ駆け寄った。
段々酔いが回ってきて和やかな雰囲気になってきた頃。
「先輩も一杯どうぞ」
「ありがとう」
ついつい美海は自分の体質を忘れ、御猪口を受け取っていた。
御猪口を口に付け、グイッと飲む。
久しぶりに口にした感覚。
「ん?」
「ちょ!おい!馬鹿!」
それに気付いた土方が立ち上がり、美海から御猪口を奪った。
「う…うーん…」
バターン!
「遅かったか…」
「え?え?え?なんですか!?」
市村はわけがわからず辺りをキョロキョロしている。
「はぁ…。総司、後は頑張れよ」
斎藤はため息を着くと部屋を出た。
「今回は階段があるからなぁ…」
沖田も困ったように呟く。
「なななななんですか?」
「美海は極度に酒に弱いんだよ」
え?自分はなんてことを。
「しかもな。悪酔いが激しいんだ」
「え?」
「鉄くぅぅん…」
ギョッと下を見ると、市村の膝の上には美海の頭がある。
全く離れない。
「えぇえ!?」
すると沖田が立ち上がった。
なんだか殺意がこもっている気がする。
「鉄くんが悪いわけではないのは十分分かっているんですけどね」
「え、ちょ、沖田隊長…?」
沖田はスラリと刀を鞘付きで手に取った。
「でもやっぱり見れたもんじゃないですね」
黒く笑う。
「いや、ちょ!ちょっと!?副長!」
「市村。それも経験だ」
「待って!落ち着いてください!冗談ですよね!?」
ジリジリと詰め寄る沖田に市村は美海が邪魔で逃げられない。
「いや!ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
バッチーン!
「ん…ん…?」
美海がズキリと頭の痛みで目を冷ましたのは、布団の中だった。
何故か隣には沖田がいる。
「おはようございます」
相変わらず整った笑顔で沖田は言った。
「………おはようございます。……なんで?」
「それは昨日美海さんと一晩を共にしたか「えぇぇえ!?」
「冗談ですよ。美海さん、昨日飲んだでしょ。お酒」
沖田はケロリと答えた。
そういえば…。
そんな気もする。
「私だって眠かったですけど、美海さんをここまでおぶってきたんですよ。階段きつかったなぁ」
「……すいません」
そうか。多分沖田さんは私をここまでおぶって疲れはててバタリと一緒に眠ったのか。
いや、この人の場合、意図的に行った確信犯な可能性も十分あり得るな。
「そういや皆さんは?」
「土方さんと斎藤さんならとっくに起きましたよ」
「他は?」
「他はあの部屋で寝てますよ。多分」
「なんで私は」
「そりゃあ女の子ですからね。あんな輩の中に放置して雑魚寝させるわけにはいかないでしょ」
女の子…。
「てかなんで沖田さん未だにここにいるんですか」
美海はジト目で沖田を見た。
沖田はもぞもぞと布団の中で腕を動かす。
そして美海の腰を捕らえた。
「!?」
「寒かったからです」
沖田は美海を抱き締めながら答えた。
こいつ……。
「嘘ですよ。美海さんの寝顔を間近で見るのが楽しかったから」
「ずっと?」
「ずっと」
美海は怪訝な顔で沖田を見た。