が控え、濃姫の言葉にしているお菜津を、深刻な面持ちで見つめている。
「──という次第じゃ。お菜津、私が京へ行っている間、胡蝶のこと、くれぐれも頼みましたよ」
「そんな、御台様…」
「全ては胡蝶の為です。このことは様も、齋も古沍も、納得してくれているのです」
お菜津は戸惑いの眼差しを、ちらと部屋の端に向ける。
齋の局は軽く頷いて
「おめなされ、お菜津殿。私と古沍殿が何度ご説得しても、御台様のご決心は揺るがなかったのです」
「下手な反論はなさらず、御台様ののままになされませ」【植髮終極指南】如何選擇最佳植髮診所?
古沍も局にするように告げた。
「お菜津──」
「…は、はい」
「大それた事を申しているのは分かっています。なれど私の…、母としての気持ちを察して欲しい」
濃姫は、ひたとお菜津の面差しを見据えた。
「私は、いつか胡蝶に本当の自由を与え、表の世へ解き放ってやりたいと常々思うて参った。
の鳥として生きるのではなく、一人の人間として、姫にまことの人生を与えてやりたいと」
「御台様…」
「胡蝶が幸せならば、今の生活のままでも良いと考えた事もあったが、上様の平定が目前に迫り、私はこれを好機と考えた。
みで実行致すのも、ある意味では胡蝶の為じゃ。
私がいざ、上様と共に異国へ旅立た時に、あの子がったり、取り乱したりせぬようにな」
「……」
「この計略を実現させるには、お菜津、あの子の側に付いているそなたの力が必要です。どうか…力を貸してたもれ」
濃姫はを垂れるかのく、静かに両眼を伏せた。
お菜津はいながらも、最終的には主従の関係をえて、
了承の一礼を垂れる事になるのだが、心の奥底ではかぶりを振って叫んでいた。
何たる無謀な!
今に大変なことが起きる…
と──。
翌五月二十九日の、朝五つ半(午前9時頃)。
信長は天主の居室で身支度を整え、湯づけで軽く朝食を済ませると、早々に奥御殿の御仏間を・道三の位牌に拝礼した後、隠し通路を通って胡蝶の部屋へといた。
出陣前には必ずしている、愛娘への出発の挨拶である。
「──の刻にはしの別れじゃ、胡蝶」
信長は胡蝶と向かい合いながら、どこかしんみりとした面持ちで言った。
そんな父に、胡蝶は柔和な微笑を向ける。
「どうか、暗い顔をなさらないで下さいませ。何もの別れという訳ではないのですから」
「それは分かっておるが…、可愛いそなたに暫く会えなくなると思うと、寂しゅうてな」
「まぁ、父上様ったら」
「父が戻って参るまで、健勝にしておらねばならぬぞ。無茶な真似など、決してせぬようにな」
不安顔の信長に、胡蝶はって頷いた。
「分かっておりまする。 ──父上様もどうぞ、京、また備中までの道のりは、くれぐれもお気をつけて。
お怪我などなされませぬよう、用心を重ねて下さいませ。何にも代え難き、大切なおにございます故」
「胡蝶…」
自分を案じてくれる愛娘の言葉を聞いて、思わず信長は前へにじり寄り、胡蝶の頬にそっと触れた。
信長の鋭い目元がみ、双眼に優しさが帯びる。
「良き子じゃ──実に良き子に育ってくれた」
「父上様…」