「ささ、ご着座を──」
千代山が居間の上座に手を差し伸べると、濃姫は躊躇(ためら)いもなく足を進め、用意されていた厚い茵の上にゆっくりと腰を下ろした。
それと同時に、三保野ら侍女衆も素早く二手に別れ、室内の両端へと静かに控えていった。
全員が座したのを見届けた千代山は、自身も濃姫の御前に控えると
「改めまして、お方様、本日はまことに祝着至極に存じ奉ります」
三つ指をつきながら、今一度 小牧山城入りの祝辞を述べた。
「お暑い中、さぞやお力を消耗なされたことにございましょう。気兼ねのう御手、御足を伸ばされ、ごゆるりとお寛(くつろ)ぎ下さいませ」
「有り難う。…この部屋の設えは、千代山殿がなされたのですか?」
「はい」
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濃姫は「ほぉ」と感心したように吐息を漏らすと、室内を静かに見渡した。
白いの竜胆(りんどう)の花が美しく生けられた床の間の壺。
その上に広がる色鮮やかな山水掛軸や、違い棚に飾られた調度品の数々。
部屋を仕切る蝶模様の紗几帳。隅に置かれた橘・唐草紋散蒔絵の文台や香盆。
どれも嫌味のない、上品な品々ばかりである。
「ほんに趣味の良い設えじゃ。気に入りました」
「お褒めに預かり、恭悦に存じます」
「清洲城に入ったばかりの頃に、殿が私の為に調えてくれた部屋とは、大違いじゃな」
信長が設えた金銀の調度・装飾品に溢れた部屋を思い出し、濃姫は懐かしそうに笑った。
「して、その殿は今どちらへおられるのです? 本丸におられるのですか?」
「いえ。殿は正午頃より丹羽長秀様らを従えられ、城下へ見廻りに参っておられます」
「本日私共が入城することは知っておろうに──。まぁ、殿らしいと言えば殿らしいが」
夫の勝手気儘な振る舞いには、濃姫も慣れっこになっていた。
「それはそうと、お慈殿はいずこへ参らたのです? 我らと共に城入り致したはずじゃが、
途中から姿が見えぬようになった故、気になっていたのです。どちらにおられるのです?」
「お慈様には、同じくこの東麓にありまする別殿の方へお入りいただきましてございます。
少々手狭なお住まいではございますが、お慈様お一人がお暮らしになるには充分かと」
淡々とした表情で語る千代山を見て、濃姫はぐっと眉間を狭めた。
「何故にそのようなことを…。共にこちらの御殿へお入りあそばせばよろしいのに」
「それをお聞きになれば、お慈様もさぞや喜ばれましょう。 なれど、外におられる他のご側室方の手前、お慈様お一人を特別扱いには出来ませぬ。
むしろ、同じ城内に住まいを与えられているだけでも、お慈様は感謝の念をお示しになるべきでございましょう」
千代山が厳しい口調で言うと、三保野も同感そうに頷いた。
「如何(いか)にも。どんなに殿からのご寵愛を被(こうむ)ろうとも、未だ御子のないお慈様は、ご側室の中では最も低きお立場。
殿がお認めになられているから良いようなものを、本来ならば側室と称するのも烏滸(おこ)がましき、
単なるお手付きの身の上なのですから。姫様がそこまでお気にかけられる必要はございませぬ」
「それは…、確かにそうやも知れぬが…」
「──それともお方様は、お慈様に対して、何か特別な感情でもおありですか?」
線のような細い目を向けながら、千代山は相手の心内を探るように訊ねた。