なのに今のお慈様は、その頃とはまるで別人のようにございます。権高に振る舞われたり、人に馴れ馴れしゅう話しかけられたり」
三保野は「そう申せば、確かに…」と、一つ頷いてみせたが
「けれど──それは単に、地が出たのではありませぬか? 殿の閨房に侍るお立場となられて、調子付いているのでございましょう」生ぬるい空気を断ち切るような、険のある声で言った。
「そうやも知れませぬが、少々変わり過ぎにございます。お慈様お一人に、殿のご寵愛が向いているという訳でもありませぬのに」
「そのようなことを私に言われても……。 姫様はこの件、如何思われます?」
と、三保野が横に顔をやると、既に濃姫の姿はそこにはなく
「───何をしているのです? 早よう参らねば、我らだけ置いて行かれますぞ」
姫は一人、表御殿に続く渡り廊下へとその足を進めていた。
「また、ご勝手な真似を! …お、お待ち下され!姫様、姫様っ!」https://techbullion.com/botox-vs-other-facial-slimming-methods/
お慈の話などすっかり忘れて、三保野は主人の背を追いかけていった。
お菜津も、何やら腑に落ちない思いを抱えながらも、今は黙ってその後に続く他なかった。
時に、信長の新たな本拠となる小牧山城は、山頂に築かれた本丸の周囲を、高い石垣で三重にもめぐらしており、
遠くから眺めれば、まるで石で出来た要塞のようにも見える、堅固な造りの山城であった。
また、中腹には曲輪も多く築かれ、堀で仕切られた東の麓には、信長の居館を含める武家屋敷などが幾つも設けられていた。
小牧山城は美濃攻略までの腰掛けの城と思われがちであったが、近年の発掘調査により、長期滞在も視野に入れた、本格的な造りの城であったともいう。
既に清洲の城下町の大部分を移し終え、この七月には織田家の主力兵たちをも迎え入れたこの新拠点は、
今まさに輿に乗り込み、新たな居城を目指して向かって来ている妻や妹たちの入城によって、更に活気づくはずであった。
まさか、彼女たちの手によって、この真新しい城が一時 暗雲に包まれることになろうとは。
勘の良い信長にも、まるで予期出来ぬことであった。
「お通りにございますー!お通りにございますー!」
その日の未の刻(午後2時頃)過ぎ。
無事に小牧山城入りを果たした濃姫、報春院、お市の一行は、それぞれの侍女衆を引き連れて、奥向きの長廊下を堂々した佇まいで歩んでいた。
制止声のかかった廊下の端々には、腰元たちがずらりと居並び、色とりどりの着物の裾が前を通り過ぎてゆくのを、平伏の姿勢で見送っている。
山頂に築かれた本丸御殿には櫓、遠侍、台所、そして表御殿・奥御殿がきちんと備わっていたが、
濃姫らはそちらには入らず、東麓に建てられた御殿屋敷の、その奥殿へと入っていた。
本丸の御殿もそれなりの広さを確保していたが、そこはやはり山の上。
濃姫や報春院らが、そのお付きの侍女たちと纏まって暮らすには、本丸の奥向きは少々手狭であった。
その為、そこよりも広々とした東麓の屋敷に入ることになった訳だが、ここも決して充分な広さがあった訳でない。
正直言って、清洲城と比べると規模が小さく、屋敷の所々に設けられた内庭も典麗と言えるものではなかった。