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keizo

「畏まりました

「畏まりました。先だって胡軫陳郡太守が潁川も攻略していたため、かの地の太守を任ずるべきであろうとのことであす。そこで段猥殿に赴任して頂こうかと。皆さまが宜しいでしょうか」

 

 段猥はどちらかといえば武官肌ではあったが、涼州の出で今まで董卓に従ってきた者の中では比較的性格が穏やかというもの。先だって中郎将に任じられてはいたが、董卓の幕僚として都に滞在したまま。丁度良いと言えば丁度良いのだが、何と珍しく待ったがかかった。

 

「はて司空殿、避孕 なにか御座いましたでしょうか」

 

 一歩進み出たので賈翅が名指しを行った。意見するなどどうされるかわかっているのか、という丁寧な威圧でもある。

 

「相国へ言上致します。段猥殿は相国の幕に連なるものゆえ言い出せませんでしたが、潁川へ出すというならば話は別で御座います」

 

「ほう仲拂、どういう意味だそれは」

 

 反抗して来るようならば三公であっても容赦はしないつもりで目を細める。朝議に立っているみなは顔を蒼くして経緯を見守っている。

 

「されば段猥殿は農事に詳しく、その見識たるや見事と耳にいたします。相国が幕より出すおつもりがあるのでしたら、是非とも大司農として司空府へ招きたくここに願い出たく存じ上げます」

 

「なに」

 

 董卓は意外だった、予想していたどれとも全く違った言葉に賈翅をチラっとみてしまう。すると賈翅ですら想定外だったのか、むう……と思考しているではないか。視線を戻して董卓は考えた。段猥がどこでどうしようとさして重要ではない、むしろ清流派の眼鏡にかなう才能を持っていた部分にこそ利用価値を見いだした。

 

「確かに段猥は農業について詳しく経験がある。そうか。それならば司空の願いを聞き届けるのが相国としての務めであろう、のう賈翅」

 

「仰る通りに。潁川太守は改めて適任者を人選致します」

 

 意見を求めているのではない、董卓はもう既にそうするべきだと決めた、声色で心を読んで従ってしまう。これが談合の末の細やかな抵抗だとはこの場では気づけなかったらしい。

 

「相国のご判断、有り難く存じます。これで国家の農事が向上しましょうぞ」

 

 うんうん、と満更でもなく頷いて朝議は締めくくられた。怪訝な部分はあったが、より上位の官職を勧められたのでそんなこともあるかと、司空の心変わりを賈翅も認めてしまう。それから数日、荀攸から潁川太守に島介を推薦すると上奏があった時は、騙されたと大いに怒り狂う董卓の姿が宮の奥で見られたそうな。

 

 その翌月だ、地震があったからと責めを受け仲拂は司空を免官されてしまうのであった。

 潁川太守に認められた直後に、城外に留まっている汝南軍へ使者を出すことにした、むろんそれは荀彧が買って出る。単身赴いて数刻、潁陰城へ戻って来る姿が見られると同時に、汝南軍が備えを解いて遠ざかっていくと報告が上がって来た。

 

「徐蓼太守はその役目ゆえにここまでやってきていたことがはっきりとしたな。ああいうのを国家の忠臣というんだよ」

 

 しっかりとした姿勢を見せつつ、現状を知って攻撃をしてこずに、適正だと確認されると速やかに軍を退かせる。誰にでも出来るようなことではない。軍勢をようやく割ることが出来るようになったので、荀諶に兵をつけて送り出す。

 

 すると数日のうちに陳郡の陳県に入城したとの報告が寄せられる。さらにそこから数日で、陳郡のほぼ全てが自称でしかない太守である荀諶に帰順するとの申し出をしてきたらしい。なんとも俺との差があって頼もしい限りだ。苦笑しつつ把握に努めようとしていると、また伝令が駆け込んできた。

 

「申し上げます! 潁川の南に何者かの軍勢が近づいております、その数凡そ一万程」

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