忍者ブログ

keizo

すことは出来ない

すことは出来ない。…新撰組の結束はより強固な物になります」

 

 

それを聞いた土方はハッと息を呑み、目を見開くと山南を見る。

 

「山南さん、まさか……」

 

 

土方の脳裏には、避孕藥 休息所で自身が漏らした愚痴が浮かんだ。

伊東が法度を覆したことに対して、鉄の掟が破られるようになれば終わりだと言った。それに対して、山南はそうはならないと返した。

そして『私にしか出来ない事がやっと分かりました』と言った。

 

それが、"脱走"だと言うのか。

 

 

山南は自らの命と引き換えに、法度を護るつもりなのだ。

 

「土方君、本当に申し訳ない。私はもう貴方とは進めなくなりました。多くの重責を一人で背負わせる結果となるでしょう」

 

「……ざけんな、ふざけんなッッ!!」

 

 

土方は顔を歪めると、山南の胸ぐらを掴んだ。その手は悲しみか怒りか、震えている。

 

「俺は…ッ!お前を死なせる為にああ言ったんじゃねえ……!!こんな真似させる為に言ったんじゃねえ!!ただ……、お前なら分かってくれると思って…ッ」

 

 

その叫びは慟哭に近かった。自分に対する非難も込められている。

山南の中で鬱憤が蓄積されているのは分かっていた。だが、引き金を引いたのは間違いなく の言葉だ。

 

それを悟った瞬間、形容しがたい感情が腹の底から湧き出ては止まらない。

 

 

「おれが…お前を…殺すのか」

 

土方はそう言うと、山南の胸ぐらを掴んだまま項垂れた。

 

「違いますよ。私が自分で選んだのです…。土方君は何一つ悪くない。貴方はいつもそうやって、自分で何でも背追い込もうとする。悪い癖ですよ」

 

「何が違うってんだよ…。何でお前はいつもそうなんだ。綺麗で居ようとしやがるんだ。恨み言でも何でも言いゃあ良いじゃねえか…ッ」

 

 

山南は慈しむような視線を土方へ向ける。そしてその背へ手を伸ばすと、母が子をあやす様に摩った。

 

 

「恨み言なんてありませんよ、むしろ…感謝しています。…私はね、岩城升屋で死んだのですよ。武士の命である、刀を振るうことが出来なくなった」

 

過去を思い出すように目を細め、左手の拳を握る。

 

「それでも、新撰組は私を必要としてくれた。貴方は私を生かそうとしてくれた…。それにどれだけ救われたか」

 

 

そう言いながら、山南は泣き笑いのような表情になった。心からの感謝の言葉なのだろう。

 

 

「だから、せめて最期は新撰組の為に死にたいのです。武士として生かしてくれたこの場所で、武士として逝きたい」

 

「そんなの…お前を必要とするなんて、当たり前のことだろうが…ッ。お前は、馬鹿だ…!大馬鹿者だ!」

 

 

気鬱になろうとも、意見が衝突しようとも、山南は最後まで新撰組のことを考えていたのだ。江戸から上ってきた時と同じように、土方と同じ道を見ていたのだ。「そうかも知れませんね…。けれど、土方君なら私の死を無駄にはしないと信じていますから」

 

それは最大の信頼の言葉であり、土方は胸がいっぱいになる。

山南が戻ってくるまで、裏切られたのだという気持ちが心のどこかにあった。だが、それは違うのだと、全て山南の最期の策略のうちだったのだと分かった。

このまま山南を失うくらいなら、裏切られていた方がマシな筈なのに。何処か満たされたような気持ちになる自分に土方は気付いた。

 

このままでは恥も外聞も無く泣いてしまいそうだと、土方は小さく息を吐く。

 

 

「…俺ァ、お前のそういう綺麗な所が嫌いだったぜ。どれだけ泥臭ェことをしても、お前は澄ましててよ…」

 

土方の精一杯の強がりに、山南はくすりと笑みを浮かべた。

嫌いと言っているのに、その表情は何処か泣き出してしまいそうな物で。

 

「私は、土方君……いや、"歳さん"の強情な所も、勝つ為には手段を選ばない所も…」

 

 

嫌いだと言いたいのか、と土方は顔を上げて山南を睨む。山南は目を細めて優しく口角を上げた。

 

 

「嫌いじゃなかったですよ」

 

 

その言葉に土方は再度胸を詰まらせる。山南の胸ぐらから力無く手を放した。

 

「そういう、所だって…言ってんだよ」

PR

コメント

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

カテゴリー

P R