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keizo

「なかなか京の人

「なかなか京の人々には信頼して貰えませんねェ。でも、仕方ないですよね。江戸とは気風が違うんだもの」

 

困ったように眉を八の字にしたところで、障子が開く音がする。どきりと胸を高鳴らせ素早く振り返ると、そこには土方が立っていた。

 

 

「何だ、土方さんか。肉毒桿菌針 どうしたんです」

 

それが土方であることに安心したような、残念なような、何とも言えない心地になりつつ座り直す。

 

土方は部屋の中に入ると、後ろ手で障子を閉めた。

 

 

「何だとはご挨拶だな。お前こそ引越しの支度はどうした」

 

「もう済ませましたよ。私は荷物が少ないから。……で、どうしたんですか」

 

沖田にそう問い掛けられ、土方は黙り込む。自分自身も何故山南の部屋へ足が向かったのか分かっていなかった。自分に分からぬことを他人へ説明は出来ないし、誤魔化さなければならない程の関係性でもない。

 

土方は沖田の前に座ると、視線を文机に向けたまま口を開いた。思えば、沖田と二人で向き合うのは久々だった。此処へ足が向いたのは、この機に言いたいことは話せと云うことなのだろうか。「総司」

 

「はい?」

 

言葉を失うほどの見事な介錯を勤めた後、沖田は壬生寺で泣き続けたと土方は聞いていた。桜司郎が見付け出さなければ、凍え死んで居たかもしれない事も。

 

「山南が脱走したと分かった日、お前だけに重い責任を背負わせちまって……悪かった。いくらでも俺を憎んでくれて構わない」

 

土方は呟くように言葉を紡いだ。沖田は驚いたように目元を動かすと、直ぐに笑みを浮かべる。

 

「私だけ、とは思っていませんよ。土方さんも同じ物を背負ってくれているのでしょう。それに、貴方は……隊の為に副長としてすべき事をしたまでです」

 

沖田は両手を後ろに付き、天を仰いだ。目蓋の裏には何時でもあの時の光景が嫌という程に浮かぶ。

 

 

「……憎むなら、土方さんではなく私自身です」

 

沖田の顔からは笑顔が消えた。土方は腕を組んで目を細める。

 

「山南さんを当日中に連れて帰るという役目を担って、出て行った筈なのに……結局私はそれを果たせなかった」

 

「それは、山南が嫌がったんだろう」

 

 

沖田は首を元に戻すと、土方を見た。その目は後悔の色をたたえている。

 

「本当は、本人が嫌がっても逃がすべきだったのかも知れません。そうすれば、今も山南さんは……」

 

「やめろ、総司」

 

土方は沖田の言葉を遮るように強めに言葉を発した。

最早、今どうこう言っても後の祭りでしかない。悔やむのは勝手だが、沖田がそれをしてしまえば山南は悲しむに違いない。土方はそう考えた。

 

 

「お前は間違っちゃいない。全部、副長と総長の命に従っただけだ。……あの人は、新撰組の為に死んだんだ。お前がいくら逃げろと言っても聞かなかったろうよ」

 

その言葉に、沖田は俯く。山南からは直接言葉として出て来なかったが、何となく脱走の理由は察していた。

伊東が局中法度を覆したと思えば直ぐに療養から戻ってきたこと。江戸へ行きたいと言っておきながら、荷物の一つも持っていなかったこと。明里という妻を迎えておきながら直ぐに死を選んだこと。

 

全てが不自然だった。やはり新撰組の為に死んだのかと土方に見えないところで拳を握る。

 

 

「そう、ですか」

 

少しだけ沖田の声が掠れた。土方はふいと目を逸らすと、立ち上がる。

 

部屋を出ようと障子の縁に手を置いたところで、振り向かずに口を開いた。

 

「……総司。俺は直に江戸に行く。お前も一緒に来るか」

 

 

江戸では藤堂が勧誘を続けている。その隊士らを迎えに行くついでに、更に勧誘をしようと考えていた。

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