土方の愚痴に桜司郎が付き合った事も近藤は知っていたのである。その上で沖田と共に休ませようとの配慮をしたのだ。
原田はそう言うと、障子をぴしゃりと閉めて去っていく。
「……強引な人だなァ」 「解散だ。切腹は今夜、暮れ六つとする。松原君、山南総長を部屋へお連れしろ」
土方の声でそれぞれが動く。https://www.easycorp.com.hk/en/notary 松原は丁寧に山南を待機部屋へと誘導した。
江戸から付き合いのある面々は動かずにその場に残る。俯き、悔しげに拳を固く握り締めていた。
土方は立ち上がろうと腰を浮かせる。その前を塞ぐように立ちはだかる者の姿に眉を顰めた。
「土方副長、貴殿は本気で処分をするおつもりなのですか」
伊東である。土方は射抜かんばかりの鋭い視線を向けた。
「山南総長がどれだけ新撰組に必要な人間であるのか、分からぬ貴殿ではありますまい!」
臆せずに面と向かって物を言えるのが伊東の美徳ではある。だが、このようにして平隊士をも庇い立てて取り込んだのかと思うと、土方は反吐が出そうな思いだった。
「必要だろうが何だろうが、法度は法度だ。法は守られるために存在する…。綺麗事で済む話なら、この日ノ本は犯罪大国になる。そうじゃねえのかい」
土方は胡座をかいて座り直すと、伊東と向き合う。伊東もそれに倣って土方の前に座った。
「だが、山南君は総長だ…。たかが脱走くらいで…」
「たかが?今、たかがと言ったか。もし山南がきな臭ェ奴で、隊の情報を持って逃げたとすれば、お前はどう責任を持つつもりだ?それでもたかがと言えるのかッ」
土方の眉間には血管が浮かぶ。無責任な糾弾をして来る人間が大嫌いだった。
口だけなら何とでも言えるのだ。結局伊東は中身の詰まらない、綺麗事の世界で生きてきた坊ちゃんなのだと苦々しく思う。
「それは……」
「山南から聞かなかったか。総長だろうが局長だろうが、例外は えんだ」
そう問われ、伊東の脳裏には山南の言葉が浮かんだ。
『無論。新撰組の隊士であれば全員が適用対象です。規律違反は切腹です。例外は認められません』
『違反を犯せば、私も腹を切りますよ。それが新撰組であることの誇りです』
心当たりがあるような表情になった伊東を、土方は見逃さない。
「法度は俺と山南の新撰組副長としての誇りだ。お前はそれを侮ったな。近藤さんを取り込めば、楽に覆ると思いやがったか」
「そ、それは……。そのようなことは…」
図星を当てられた伊東はすっかり萎縮した。そして初めて法度の重みを思い知ったと言わんばかりに顔色を青くする。
未だに山南の事を助けられると信じていたのだ。
土方は不敵な笑みを浮かべると、伊東に近付く。そして低い声でこう告げた。
「山南の切腹の片棒を担いでんのは……伊東さん、お前もなんだぜ。心当たりが無えとは言わせねえ」
「そんな……」
その言葉に伊東はがっくりと項垂れる。わなわなと唇が震え、全身の血が引いていくような感覚に襲われた。
療養から復帰した山南を前に、得意気に局中法度は覆せると話したことを思い出す。
「お前さんも一緒に腹を切るか?そうじゃねえんなら、黙っていろ」
土方はそう凄むと、呆然と座り込む伊東を尻目に部屋を出て行った。