それもそうだ。やって来たのは三津の掛かり付けの医者じゃない。
「あぁすみません。驚かれましたよね。実は先生に急患が入りまして私が代わりに。
お三津さんはどちらに?」
「そう…ですか。三津は二階に上がってすぐ右の部屋ですが…。」
どこか怪しく思うが,店は丁度忙しい時間帯とあって,功助もトキもその場を離れる事が出来なかった。
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久坂は丁寧に頭を下げ,長身を折り曲げた低い姿勢で店の中へ入った。
『なかなか用心深い主人と女将だ。あまり長居は出来んな。』
この時間を狙って正解だったと思いながら三津の部屋へ向かった。
「失礼します。」
ゆっくりと戸を開いて中を覗き込むと,目を丸くして不思議そうな顔をした三津と目が合った。
するとその目はすぐに微笑んだ。
「こんにちは。新しい先生?」
「えぇ,急患が入ったので代わりに参りました。」
三津はそうですかとすんなり信じた。
久坂は側に腰を下ろして部屋の中も細かく観察した。
「ねぇ先生。」
「はい,何でしょう?」
努めて穏やかな医者を演じた。
「私,先生と初めましてやないですよね?」
久坂の瞳孔が大きく開いて動揺を表した。
『こいつもあの日会った事覚えていたか…。』
これしきで動揺してる場合じゃない。
久坂は呼吸を整えてまた笑顔を繕った。
三津の方は無邪気に笑う。
「当たり?何処で会ったかは覚えてないですけど,でも私一度会った人の顔って忘れないんですよね!
待って下さいね?今思い出しますから。」
「そんな事より体を休める事を考えなさい。熱は?体で痛む所は?」
『調子狂うな……。』
若干の苛立ちを抱きつつ,これ以上乱されないように話しをすり替えた。
「熱は無いと思います。前より体が軽いし。体の傷も掠り傷やから大丈夫です。ほらね?」
三津は袖を捲り上げて腕を見せた。
細い腕には生々しい傷痕がちらほらと。
紫色っぽく変色した痣も出来ている。
「でもよくご無事で。どこぞの不逞浪士がこんな事……。」
『さて,この口は真実を語るだろうか。それとも酷い目に遭ったと話を誇大させるだろうか。』
聞きたいのは吉田と三津しか知り得ない真相。
「みんなにも散々聞かれたんですけど,あんまり覚えてないんです。」
三津は曖昧な言葉と笑顔ではぐらかした。覚えてないはずはない。長州藩士に拐われて,長州藩邸に監禁されたのは明らかな事。
『顔だって一度見たら忘れないと言っていたのに。ならば理由は一つか。
此方に害の無いように考えての事…。』
桂の為か吉田の為か分からないが,長州の名を伏せてもらえるのは有難い。
「新選組に関わるから…とは言われませんでしたか?」
久坂は塗り薬を取り出すと指で掬って三津の傷口に塗り込んだ。
「めっちゃ言われましたよ。でも油断したのは私やから。自分の身は自分で守らなアカンのに。」
三津は久坂の手の動きを目で追った。
「今回の件は自業自得だと?怪我をして,体調まで崩しているのに?」
「そう言う事にしといて下さい。結果こうして生きてる訳ですから。」
三津は誰も悪くない。そう言う事にしたかった。
『これに便乗して新選組から逃げ出したのに,みんなをこれ以上悪者にしてしまうのは申し訳ない…。』
それに長州の人間と関わりがある事は絶対に知られてはいけない事。
その事が知られた時,自分に関わった人達がどうなってしまうのか。
それが怖くてたまらない。
「そうですか…ならばそう言う事にしておきましょう。」
『ただのお人好しか,それとも偽善者か。』