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keizo

とハンベエは先ほどの剣幕は何処へやら

とハンベエは先ほどの剣幕は何処へやら、声を和らげてロキを褒めた。「さて、どうするんだい。」とイザベラが寝台から立ち上がってハンベエの方に歩いて来た。エレナもその後ろに続く。「あの、私、父に毒を盛ったりはしていません。」エレナが弁解した。国王の死を聞いて虚ろな様子だ。「分かっている。此処にいる全員な。」ハンベエは静かに言った。エレナに向けた眼差しが妙に物優しげである。それを見たイザベラやロキは複雑な表情になった。一体ハンベエは薄情なのか優しいのか判断に迷うとでも言いたげな顔である。「で、どうするんだい。」イザベラがハンベエに尋ねた。エレナを優しく慰めていた時とは打って変わり、目が野獣のような光を帯びて鋭くなっている。スイッチが入ったと言うやつだろう。戦闘モードに切り替わったようだ。「遂に内乱の幕が開けたよ植髮うだから、王女はタゴロローム守備軍で保護するしかないようだな。」ハンベエは言った。苦い顔になっている。バンケルクを討ち滅ぼした自分が、そのやろうとした事を盗み取ったように思えたのである。「あの私、ハンベエさんなんかに助けて欲しくありません。」エレナが口を尖らせた。ハンベエは一瞬、戸惑うような表情でエレナを見つめたが、直ぐに妙に砕けた顔付きになって、「そうかい。だが、俺は王女を助けたい。」と言った。その様子は緊張したところも変に気張ったところも少しも無く、又皮肉めいた処もない、イヤに砕けた自然な調子だった。何と言ったらいいのか、強いてハンベエのこの時の言葉付きを説明すれば、例えば『裏の山を散歩していたら、タケノコを見つけたので取って来たよ。』と家人に告げる親父のような、そんな肩に力の入らない、自然な調子であった。「な、何を・・・私の許婚であるバンケルク将軍を殺しておいて、良くそんな勝手な事を・・・。」ハンベエの雰囲気にエレナは目を白黒させながら噛み付いた。「落ち着きな、エレナ。」イザベラがエレナの肩を強く掴んだ。そして、王女の目を強い眼差しで見つめて言った。「ここで、王宮警備隊の連中に捕まったら、父親殺しの濡れ衣を着せられて消されるだけの事だ。今はこの窮地を如何に脱出するか、それが全部だよ。」それから、ハンベエの方に顎をやり、「この憎たらしい男には、生き延びた後に悪態つくなり、命を狙うなりしたらいいさ。今は、逃げるしかないんだ。」と続けた。「そうだよ、王女様。今はとにかく、逃げる事だけ考えようよ。」ロキがイザベラに調子を合わせて言った。「イザベラさん、ロキさん。」エレナは二人を潤んだ瞳で見つめ、それから、『分かった』というように頷いた。 付け加えておくが、これらの会話は囁くような小さな声で交わされているのである。王宮警備隊の兵士達が血眼になってエレナを捜し回っているのに、王女の存在がバレるような話を大きな声でするほど彼等も能天気ではない。「で、どうするんだい、ハンベエ。」イザベラ、さっきからこればっかりである。壊れたレコードじゃあるまいが。ハンベエは、腕を組んで仏頂面を曝している。まさか戻った早々、王女の仕業に仕立てて国王を毒殺するなどという大陰謀が勃発するなどとは髪の毛ほども予想していなかった。全く、闇夜に田んぼの畦道を滑り落ちたようなもので、泥田の中で焦るばかりで良い知恵も中々浮かぶものでは無かった。幾つかの案を頭に描いては消すという作業を、目まぐるしい速さでハンベエは行っていた。イザベラにエレナに変装させ、囮にしてボルマンスク方向へ行かせ、敵の目をそちらに向かせる事も考えた。だが、その案は直ぐに捨てられた。その案では、エレナが一人でタゴロロームに向かう事になる。今のエレナを一人になどできなかった。ちなみにこの時ハンベエは、自分の手でエレナを送って行くという事は全く考えていなかった。エレナを自分に同行させては反って彼女の身に危険が及ぶと考えたのである。第一、目立ち過ぎるハンベエは反って敵の監視の的になるであろう。

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