に手招きをする。そして、別に部屋を手配して貰うように言った。
たまの逢瀬は二人きりが良いだろうと思ったのである。禿は沖田に言われた通りに部屋を別に用意した。沖田はそれを聞くなり、立ち上がると山南に耳打ちをする。
「私達は別の部屋に行きますので。また大門で会いましょう。ごゆっくり」
「そ、総司。audit services hong kong 別に私は……」
山南は少し慌てながら松原や桜司郎の方も見た。松原はニヤニヤと口元をだらしなく緩ませ、桜司郎はにこにこと笑っている。
そして三人はあっという間に部屋から居なくなった。
「…全く、あの人達は」
山南は眉間に皺を寄せる。明里はくすりと笑うと、その肩に凭れかかった。
「うちは、ほんに久々の二人きりで嬉しおすえ。…それで、山南せんせ。何か有りましたのやろ。様子が可笑しおす…。うちの目は誤魔化されへんえ」
肩先に僅かな温もりと重みを感じながら、山南は観念したように苦笑いを浮かべる。
「…明里──おさとさんには敵いませんね」
山南は、明里を"さと"と呼んだ。二人きりの時は幼名で呼ぶという約束を交わしていたのである。
「女には は分かりやしまへんけど、聞くことなら出来ます」
明里は山南に預けていた身体をそっと起こすと、少し距離を離した。そして自身の膝をぽんぽんと叩く。
それは膝枕の合図だった。
山南は気恥ずかしそうに頬を搔くと、のそりとその膝に頭を乗せる。
「…これ、慣れませんね。私は、貴女の声が大好きだから貴女の話が聞きたいのですが」
顔を赤くしながら、山南はそう言った。
「うちも、山南せんせの声…好きどす。久々なんやから、今日は譲って貰いますえ」
歳は十程離れているが、二人きりになると明里の方が強い気がする。
「分かりました。…聞いても、楽しい話では無いのですがね」
山南はそう言うと、機密に触れない程度で自身の思いを話し始めた。
男が唯一弱音を吐けるのは、惚れた女の前なのかもしれない。
刀を振るうことが出来ない自身が新撰組の総長として居続けることへの疑問。
土方との意見の相違。江戸を懐かしく思う気持ち。
これらを話し終えるまで、明里は真剣に耳を傾けていた。静寂が部屋に広がる頃に、明里は口を開く。
「…山南せんせ、お苦しいどすなぁ」
「苦しい…?私は、何もしていないのだから、苦しいなど思っては罰が当たりますよ」
山南は驚いたような表情を浮かべる。明里は悲しげに唇を引き結ぶと、山南の頬をそっと撫でた。そして左胸に手を添える。
「いえ。ここが、苦しいと言うてます。山南せんせの優しさは、うち…よう分かってますんや」
触れられた箇所からじんわりと、凍りかかった心を溶かすような温もりが広がった。
本当は、新撰組なんて辞めて欲しいと言いたかった。だが、鉄の掟を知っている明里はそれが言えない。言ってしまえば、この優しい人の命が無くなってしまうから。
山南は明里の手に自身の手を重ねる。それは僅かに震えていた。
「お武家はんていうんは…、男はんていうんは…難儀どす」
どれだけ悲しくても、寂しくても、泣くことすら我慢して己を律してしまう。
山南が京に来て、知り合ってからずっと山南の言葉を受け止めて、その背を見てきたからこその言葉だった。
会う度に何処か れていく姿を見送るのは辛いものがある。
それでも、会いに来てくれるのだからと悲しい表情は封印していた。だが、今日だけは我慢出来ない。