の話だけではない。起こるはずのこと、たとえば会津藩や会津侯の行く末も含め、淡々と語った。
この場にいるだれもが息すらしていないのではないのか、というほど部屋の内は静かである。それをいうなら、開けっ放しになっている窓の外も静かである。外は、すでに暗くなっている。階下から、客引きや飯盛り女の声すら流れてこない。
百五十年後を経た現代でも、会津に住む人々は長州をよく思っていない。それほど、凄惨な戦であり、不遇の戦後であったというところで説明をおえた。
「くそっ!会津侯は、泰國生髮藥 あれだけ幕府にも朝廷にも尽力をつくしていたのに、か?」
燭台が立てるちりちりという音がやむと、副長がうなった。
そのあとは、また沈黙がおりた。
だれもが、会津藩の面々や会津侯のを思い浮かべているにちがいない。
さすがの野村も、口をとじてなにやらかんがえこんでいるようだ。
そんな暗ーい雰囲気のなか、仲居さんが障子の向こうにあらわれた。
ディナータイムである。
そのタイミングで、俊春が旅籠の人に頼んで相棒になにかやってくるとでていってしまった。
あ、いや。もちろん、それはおれの役目である。ゆえに、そう申しでた。が、俊春がソッコー拒否ったのである。
けっして、けっして、けっして、相棒につれなくされてる腹いせとか、おれたちの関係をあきらめているとか、ではない。
俊春といい合いになれば、おれが負けるにきまっている。その上、不利な状況を招くことになり、そうなると相棒にますます嫌われてしまう。
はぁぁぁぁぁ……。
溜息しかでてこない。
って悲嘆にくれるのと、腹具合は別物である。
飯に煮物にみそ汁に香の物という、オーソドックスな献立ではあるが、量がぱねぇし、なにより素朴でやさしい味である。
心静かに堪能した。
喰いしん坊さんたちも、飯はお櫃ごともってきてもらい、腹いっぱい喰った。
喰いおわった、俊春がもどってきた。
「旅籠の賄い人にぶっかけ飯をもらったので、にはそれを食していただいた」
部屋に入ってくるなり、俊春がマジなでいってきた。
「あの、なにもかもお世話していただいてありがとうございます」
こっちもマジなになるよう、懸命に努力してみる。には、いまから食後の腹ごなしをしていただこうと思うのだ……」
「ぶっちゃけ、ピーとプーだ」
またしてもマジにいう俊春にかぶせ、現代っ子バイリンガルの上に下品きわまりない野村が、餓鬼みたいに叫びつつうれしがっている。
「やめないか、利三郎。ったく、餓鬼みたいにうれしがるなよな」
幼稚園の先生のごとく、毅然と注意してしまった。
「ピーはですね、それからプーはですね」
野村のやつ、きいちゃいない。ケラケラ笑いながら、島田に解説している。
「薩摩の蔵屋敷で申していたな。よし、したぞ」
なんと、島田が指先で頭をたたきながら神対応している。
「副長、この旅籠の湯はよさそうです。客の姿もなく、いまなら一番風呂かもしれませぬ。旅塵を落とされてはいかがでしょうか」
俊春は、廊下にさっさとでてからそこに片膝ついてすすめている。
「おお、いいな……」
「ワオッ!ウィ・アー・スメルズ・ソー・バッド!さすがに、超絶くっさーって感じですよ。副長、背中を流します。ゆきましょう」
副長のよろこびの声にかぶせ、さらにうれしそうなの野村が、ピーやらプーやらの話題はそっちのけで、俄然はりきりだした。
ちぇっ!野村のやつ、風呂など好きじゃないくせに。
ヨイショってやつか?
そう野村に腐りつつ、自分の腕をあげて小者用のコスプレの衣裳のにおいをかいでみた。
うううううっ……。
くさすぎるー。
おれのは、フレーメン反応みたいになっているにちがいない。
「く、くっさー」
それから、声にだしてしまった。
「たしかに、これはひどいな」
永倉も島田も同様に、わがにおいに顔をしかめている。
「ならば、一番風呂は土方さんと利三郎にゆずって、おれたちはぽちと兼定とそこらをあるいてからひとっ風呂浴びるとしよう」
永倉のいきなりの提案である。それからかれは、副長がなにかいいかけるまえにさっさと部屋をで、廊下に控えている俊春をうながす。
「なにをしている。魁、主計、ゆくぞ」
そう声をかけると、廊下をあるいていってしまった。
「組長は、あいかわらずせっかちですな」
島田は苦笑しつつ、副長に一礼してからあとを追う。
「では副長、いってまいります」
廊下に