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keizo

を向けている副長に声

を向けている副長に声をかけた。

 すると、そのがおれへと転じる。

 

「主計……

「はい?」

 

 しっかりとがあった瞬間、副長がおれの名を呼んだ。

 

「いや、いい。鋸棕櫚 いってこい」

「なんなんです?おっしゃりかけてやめてしまうなんて、副長らしくありませんし、気になるじゃないですか」

「生意気いってんじゃねぇよ、主計。ほら、さっさといってこい。おいてゆかれるぞ」

「もう、理不尽なんですから」

 

 苦笑してしまった。

 ぜったいに、なにかいいたかったにちがいない。

 

 立ち上がってからまた副長をみると、副長はを廊下へと戻している。

 

 いいや。廊下へというよりかは、だれかの背をおっているって感じであろうか。

 

「はいはい。気になりすぎて仕方がないですが、いってまいります」

「主計、アイム・ルッキン・フォワード・トゥー・スべニア」

「なんで土産を買ってこなきゃならないんだ?もうどこの店もしまっているだろう」

 

 副長は、おれの嫌味をスルーしたらしい。そのかわりに、現代っ子バイリンガルの野村が「土産を買ってこい」なんていってきた。

 

 そのかれにいい返してから部屋をでた。さりげなく振り返って部屋のなかをみると、副長はぼーっと廊下のなにかをみつめている。

 

 なにをいいたかったんだろう。

 

 モヤモヤしつつ、永倉たちを追った。

 

 永倉たちに追いついたのは、相棒を連れ、宿場町の通りをあるいているところであった。

 

『相棒を連れ』、というのは、俊春が相棒の綱を握ってという意味である。

 

 しばし無言のまま、宿場町のはずれへとあゆみつづける。

 

 通りの両脇に旅籠が並んでいるが、営業しているところでもひっそりとしている。呼び込みやら飯盛り女の誘いがまったくない。

 

 宿場町の人々も、いまこの世のなかに起こっていることを察知し、肌に感じているのであろう。

 

 とはいえ、現実的なところでは、お客さんの宿泊がなければ稼げないし、そもそも旅人の数が減っていては、宿場町じたい影響を受けているだろう。

 

 戦はいろんなところにいろんな意味で影響を与える。もちろん、それで儲かったり潤ったりという職種や機関というのもあるだろう。が、そうでないケースのほうがはるかにおおいはずだ。

 

「でてくるときに、副長の様子がおかしかったんです」

 

 あまりにも無言がつづいている。とりあえずなにかいっておかねばと、うしろからそういってみた。

 

「ああ、そうだろうな」

 

 先頭をゆく永倉が、ただ一言そう応じた。「そうだろうなってどういう意味なんです?なにゆえ、それがわかるんですか?」

 

 その謎解釈にツッコんでみた。すると、永倉と肩を並べる島田、それからおれのすぐまえを相棒とあるいている俊春が、同時にだけこちらへ向けてきた。

 

 二人とも、同時に両肩をすくめる。

 

 それは、おれ同様永倉の謎解釈がわからないという意味ではない。「わかってないなぁ」という、おれにたいして呆れかえっている意味のようである。

 

 ふとだけこちらへ向けてきた。

 

 二人とも、同時に両肩をすくめる。

 

 それは、おれ同様永倉の謎解釈がわからないという意味ではない。「わかってないなぁ」という、おれにたいして呆れかえっている意味のようである。

 

 ふとをおろすと、相棒も鼻面を器用にこちらへと向けている。があうと、いつものように「ふふふふん!」と鼻を鳴らした。

 

 こちらは、いつもとおなじリアクションだ。

 

 心のなかでため息をついてから、を前方にもどしてみる。島田はまえを向いているが、俊春はまだおれをみている。

 

「永倉先生が呼んだ面子だと、あきらかに副長のことを話したいがためだとわかるではないか。副長は、それに気がつかれた。ゆえに、気にされていらっしゃるわけだ」

 

 俊春が教えてくれた。

 

 なるほど……

 

「利三郎もそれに気がついて、わざと副長を風呂に誘うというをしてくれたのだ」

 

 俊春はつづける。

 

 なんと……

 

 俊春まで「神対応」なんて言葉をつかってるし……

 

「主計、そこじゃなかろう?そこは利三郎でさえ気がついているのか、とツッコむところではないのか?」

 

 刹那、俊春がツッコんできた。

 

 ええ。おっしゃるとおりです。

 

 さすがは俊春である。お笑いも、かれにとってはさしてむずかしいスキルではないらしい。

 

 そのとき、永倉が立ち止まった。すでに宿場町からでていて、左眼前に林らしきものが浮かび上がっている。

 

 かれはそちらへと向きをかえ、またあるきはじめた。

 

 副長について、そこで話をするらしい。

 

 永倉は、ひときわぶっとくて高い木の幹のまえにくると、それに背中をあずけた。

 

 見上げると、樹齢何年だろう、立派な栃ノ木である。さすがは、栃木県にある木である。もっとも、いまはまだ栃木県ではない。

 

 この木は、将来廃藩置県でその名の由来となる木である。

 

「あらためて頼むまでもないが、土方さんのことを託したい」

 

 永倉を囲むようにして居並ぶと、永倉がそうきりだした。

 

 そのときになってやっと、原田も別れるその朝、おなじことを俊春とおれにいったことを思いだした。

 

 そうだ。

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