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武田はそう言うとニヤリと笑った

武田はそう言うとニヤリと笑った。桜花は目を見開く。

 

そんな横暴が許されて良いのか、と思ったその時だった。ぴしゃりという小気味良い音と共に頬が熱くなる。

 

ジンと右頬に痛みが走った。

 

身の程を弁えなさいな。VISANNE Watsons 副長助勤のこの武田が、下働きの貴方に目を掛けてやろうと言っているんですよ」

 

悔しさと恐怖で桜花は二の句が告げなくなる。

それを見た武田はふん、と鼻を鳴らした。

 

藤堂や斎藤、沖田も好みの顔をしているが、同じ立場である上に江戸出身で贔屓をされているため、手が出せない。やはり立場の低く気の弱い男が一番だ

 

そんな事を考えながら、武田は桜花へ近付く。

 

「ややめて下さい」

 

まだ己の立場を理解していないようだな。私を怒らせるとどうなるか試してみるか?」

 

 

低い声でそう言えば、桜花は更に身を固くした。

 

そこへ足音が近付いて来ることに武田は気付く。舌打ちをすると、素早く桜花から距離を離した。「鈴さん、こんなところに居ったんか〜!って武田さん、お取り込み中やったか?」

 

 

現れたのは松原と斎藤である。松原の坊主頭に太陽が差し込み、まるで仏のようだ。

 

何でも有りませんよ。離れ離れになってしまいますので、挨拶をとね。そうでしょう、鈴木君?」

 

 

武田は侮蔑の篭った視線を桜花に向ける。桜花は小さく頷いた。

 

武田はそのまま踵を返して去っていく。

気が抜けた桜花は座り込んでしまいそうになるが、何とか堪えた。

 

「鈴さん、大丈夫か。馬越に教えてもろたんや。何かされたか?」

 

 

あの時馬越は逃げたのではなく、対処をしてくれそうな上役を呼んでくれたのだと理解する。

 

「あ、りがとうございます

 

斎藤は桜花に近付くと、そっと手を伸ばした。桜花はびくりと目を瞑って顔を逸らす。夏だと云うのに冷たい手が右頬に触れた。

 

「頬、腫れているが。叩かれたのか」

 

 

武田が去ったことを確認してから、その質問にそっと頷く。

松原と斎藤は顔を見合わせた。

 

「大方、思い通りにならぬと手を上げたのだろう。良ければ我々から副長へ報告しておくが」

 

 

その申し出に、桜花は首を横に振る。

何故ならと言うと、それは注意を受けるくらいで根本的な解決にはならないからだ。

むしろ逆恨みをされる可能性の方が高い。

 

油断していた私が悪いので。次からは二人にならないようにします」

 

「ほんまに大丈夫なんか。脅されてへんか?」

 

 

松原や斎藤と言えども、あの手の人物は下手に敵に回すと厄介だろう。

上司にはゴマをすり、部下や身分の低い者には玩具のように扱う。

 

はい。私もですから。でも助けて頂いて、有難うございます」

 

 

桜花は花の綻ぶような笑みを二人に向けた。斎藤は顔を赤くすると、顔を背ける。

 

「あ、ああ……。また何かあれば遠慮なく言うと良い。俺達にはあんたを新撰組へ引き込んだ責任がある故」

 

 

真面目な斎藤はそう言うと、何処かへ歩いていった。桜花は松原と共に皆のいる所へ戻る。

 

 

丁度近藤らが出立しようとしていた。

皆に手を振りながら、近藤は背を向けて歩いていく。

 

桜花はふと沖田の事が気になった。

また近藤と離れてしまうため、きっと寂しいのではないか。そう思ったのである。

 

見渡すと、沖田は端で立っていた。近藤を見詰めるその表情は悲しげな、羨ましそうな、そんな切ないものであった。

 

だがこの腫れた顔では心配を掛けてしまいかねない。

そう判断した桜花は沖田に駆け寄るのを諦め、見送ったら部屋に戻ろうと、それまで松原の隣にいることにした。

 

 

一方で、沖田は小さくなる近藤の背を見送りつつ、無意識のうちに桜花の姿を目で探していた。

 

「あ

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