五月二十二日。新撰組は将軍である家茂一行の上洛の護衛のために三条蹴上まで出向いた。
その翌日のことである。土方の言う通りに、蘭方医を名乗る坊主頭の男達が屯所を尋ねてきた。それを近藤、土方、伊東の三人が出迎える。
「やあ、近藤君。出迎え有難う。久方振りだねェ」
「いやはや、松本 に来て頂けるとは!植髮效果 この近藤、感激にござる」
近藤とにこやかに言葉を交わす男を といった。法眼とは僧位の一つではあるが、医者や絵師などにも与えられた称号でもある。
土方は冷静に、伊東はにこやかに挨拶を交わした。
「近藤君、紹介しよう。私の弟子だ」 ど申す。」
松本は後ろに控えている蘭方医を見やる。南部は、会津藩医を務める傍らで木屋町にて開業をしている。寡黙で会津の訛りが強い男だった。
近藤はにこにこと二人を見ると、屯所へ誘導する。
「お疲れでしょう、茶でも……」
「いや、近藤君。茶の前に屯所内を見せてもらうぜ。江戸で話をチラッと聞いた時から、気になってたんだ」
松本がそう言えば、近藤は大きく頷いた。大きくなった屯所を見せられることが誇らしいのか、近藤は先陣を切って案内人を務める。土方は嫌な予感がする、と思いつつその後をついて行った。
その予感は的中する。隊士部屋やら馬小屋、厨などを案内する度に松本の顔に雲行きの怪しさを感じていた。
一通り見て回るなり、松本は大きな溜息を吐く。それを見た近藤は心配そうに首を傾げた。
「……近藤君。あんたは、江戸で私に病になる隊士が多いと言ったな?」
「は、はい」
「こりゃあ、病にならねえ方が可笑しいってもんだよ。回りくどいのは嫌いなんでな、ハッキリと言わせてもらうが…… え環境だ!布団はカビ臭ェ、厨は煤だらけ、あれだけ汗塗れで稽古をするのに風呂の一つもねえ!あんたらは何を考えていやがる!?」
松本は捲し立てるように苦言を呈する。それを受けた近藤、土方、伊東は呆気に取られた。
「ふ、風呂は作る予定ではあって……」
「ああ、そりゃあ結構な事だ。最優先事項として早急に作ってくれ」
うんうんと頷くと、松本は腕捲りをする。それを見た土方は再度嫌な予感がすると眉間に皺を寄せた。
「今いる隊士全員の診察をしようと思う。何処か広間を貸してくれねえか?」
その言葉に近藤は分かりました、と言いつつ土方を見る。幕府の御典医からの申し出を無碍には出来ないと思った土方は、渋々広間へ誘導した。
松本と南部はそこで診察の準備をする。こっそりと抜け出した土方は、一番組の部屋へ桜司郎を呼びに向かった。
「おい、鈴木はいるか?」
副長手ずから呼びに来たことに、一番組の隊士達は顔を見合わせる。当の桜司郎は手伝いのことか、と直ぐに把握し返事をすると立ち上がった。
それを見た沖田は口を開く。
「桜司郎さん、何故貴女が手伝いに?」
その問い掛けに、桜司郎は僅かに困惑する。本当の事は沖田にも言えなかったからだ。
「えっと……。私、医学の知識が全く無いので。少し興味があって、副長に頼んでいたんです」
「……ああ、成程。頑張って下さいね」
そう言えば、沖田はニコリと笑う。誤魔化しきれたかと安心した桜司郎は、行ってきますと部屋を出た。