子どもの田村の好奇心は兎も角、斎藤、なにゆえ喰いついてくる。先夜のおねぇの件といい、かれはいったいどうしてしまったんだ?
孤高の人斬りっていうイメージから、ますますかけはなれてしまう。
「露出狂というのは、自分の赤裸々な姿をみての病ですよ」
とりあえず、肺癌症状 遠まわしに表現しておく。
「ふーん」
田村の興味をなくしたような返事。
「ほう。具体的には?」
そして、ますます喰いつき気味の斎藤。
斎藤、やっぱおかしいよ、あんた。
「たいていは、男性がマッパ、もとい、ほぼ裸にちかい状態で女性にみせるのです」
「ああ、左之さんのように?」
京の伏見奉行所で、会津藩士たちと餅つき大会をおこなったことがある。その際、なにゆえか原田がマッパで餅つきをしようとし、杵をふりあげた瞬間にぎっくり腰になったのである。斎藤は、そのことをいっているのだ。
「まぁ、あのときには男性しかいませんでした・・・」
「左之さんは、島原でも吉原でも、それどころか町でも村でも、兎に角、もらいたいっていう、ちょっとしたにみせたがるのだ」
斎藤にはまだつづきがあった。
「ああ、腹部の切腹の痕ですよね?」
「ふむ。あれは、いわゆる前座だ。誠に真っ裸になりたがるのだ」
なにい?それって、完全に公序良俗違反じゃないか。
まぁ、原田らしいといえばそうだけど・・・。ということで、片付けておく。
「原田先生のは、じつに立派だからな。みせられた方も、眼福になるであろう」
それまで沈黙を護りぬいていた俊冬が、幾度もうなずきつつ謎納得している。
「ちょっ、俊冬殿。なにゆえ、そんなことをしっているんです?」
「なにゆえ?おいおい主計。やぼなことを尋ねるでない。さあ、鉄、銀。またせたな。できあがったぞ」
原田のおおきさを、なにゆえしっているのか?それについては語らず、謎だけを残す俊冬。
かれは、子どもらにやわらかい笑みとともに声をかける。掌にある服を、ひらひらさせながら。
「わー、ありがとうございます」
「着てもいいですか」
市村と田村は、飛び跳ね大喜びしている。
「無論。着方を教え・・・」
俊冬の答えがおわるまでもない。二人は得物を縁側に置くと、よそ様の庭先で着物を脱ぎすててしまった。
褌一丁になったところで、俊冬が苦笑まじりに服を着せてやる。
軍服である。
子どもたちでも着用できるよう、俊冬が大人用のをつくりなおしたのか・・・。
先日の甲州での戦の軍議中に、原田が冗談でプロポーズをしていたが、たしかに、家事全般が完璧な双子なら、嫁にって思いたくもなる。
「おれは、あとでいいですよ」
はしゃぐ子どもらを横目に、俊春に口の形をおおきくしてしらせる。
「面倒くさいやつだな、主計。まあ、よかろう。かえのシャツとズボンを用意しておくゆえ」
なんだかんだといいつつ、希望はかないそうである。
「おっ、似合うではないか」
「ほんとだ。似合っているぞ、二人とも」
斎藤とともに、子どもらをガン見してから感想を伝える。
二人の軍服姿。そこそこに映えている。会津候からいただいた金子で購入した得物を帯び、ばっちりきまっている。
「ありがとう、双子先生」
「これで、わたしたちも一人前に戦えますよね」
田村につづき、市村がいう。一人前に戦えるのかという点においては、局長も副長も許すわけはない。だが、一人前っぽくみえることはたしかである。「でっ、なにをねだろうとしていたんだ?」
そもそも、二人はなにかをねだろうとしていたのである。そのことを思いだし、尋ねてみる。
「寺に、飴売りがきているらしいのです。主計さんでも、飴くらいはおごってくれるかな、と」
田村のおねだりに、斎藤と双子が同時にふきだした。おれも相棒も、笑ってしまう。
「な、なにがおかしいのです?」
「い、いや。すまぬ、鉄。ついさきほど軍服を着、一人前に戦えると申したばかりだというのに、飴をねだるのかと」
くくくと笑いつつ、斎藤が代表して答える。
が真っ赤になっている。
みなでひとしきり笑った後、俊冬が口をひらく。
「さぞかしうまい、飴細工であろう」
「さよう。細工も味も抜群にちがいない」
飴細工?俊冬がそう断言し、俊春がつづける。
なにゆえ、飴細工と断言するのであろう。
「偉大なる隊士兼定の散歩係が、派手におごってくれるらしいですぞ、斎藤先生。われらも同道させていただきましょう」
俊冬が斎藤を誘う。
双子は、裁縫道具を丁寧に木箱になおしはじめる。
飴ときいて、単価は高くないと内心で思った。が、飴細工となると話はちがってくる。現代でも、芸術作品っぽいものだと高いはず。
相棒をみおろすと、きらきらした