桂から嫌われる不安と恐怖が一気に溢れだした。
考えるより先に三津は桂の背中にぶつかって行った。
背後からの衝撃に桂は歩みを止めた。自分のお腹に回された腕を見下ろしてから,上半身だけで振り返った。
「……びっくりした。」
「ごめんなさいっ!壬生に行ってごめんなさい…。」【生髮】鋸棕櫚可養髮?功效、副作用一覽! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
「先に謝るなんてずるいなぁ。まぁいいか,ゆっくり話してもらうよ。おいで。」
しがみつく三津の頭を撫でて“さぁこっち”と連れ込んだのは盆屋。
三津を部屋に押し込んで後ろ手で障子を閉めた。
怯えた顔できょろきょろする姿を見てくすっと笑った。
「何を怖がってるの。」
「だって小五郎さん怒ってますよね…。」
「まだ怒ってないよ?」
桂は三津の手を掴んで引き寄せると首筋を念入りに確認した。
「あの…?」
『まだ怒ってないってこれから怒るのかな…。』困惑気味に立ち尽くしていると,桂は納得したのか何度か頷く仕草を見せた。
「手は出されてないね。」
「なっ!何の確認ですか!出される訳ありません!」
顔を真っ赤にして反論すると桂はやれやれと言った表情で首を横に振った。
「君は自覚が足りない。
壬生へ行った事はいい気はしないけど仕方ない。君はどちらの味方でもないからね。」
その言葉は三津の胸にグサッと刺さった。どちらの味方でもないのは確かだ。どうしてこんなにも対立して斬り合ってしまうのか理解が出来ない。
これからもどちらかの肩を持つ事もしないだろう。だけど,そのどっち着かずの態度にうんざりされてしまった様に聞こえた。
「呆れましたか…。私の事嫌いになりましたか…。」
勝手に涙が溜まる。声も震える。桂の顔を見てるのも辛くなった。
謝って済む問題でもないのかと思ったら,もう出来る事なんて何もないかもしれない。
俯いてしまった三津の頭に優しい声が降ってきた。
「三津がどちらの味方でもないのは初めからじゃないか。
どっちの人間だろうと別け隔てなくその相手を大切に思う三津が私は好きだ。それに私だけは特別だろう?」
これでも君の事は分かってるつもりだと優しく抱きしめた。
「でも土方君についてった経緯は詳しく話してもらわないと。」
抱きしめた体をひょいと担ぎ上げて綺麗に敷かれた布団の上に移動した。
「ここじゃなくてもお話は…。」
「ここじゃないと駄目なんだ。」
三津を下ろすと正面に座り胡座を掻いて腕を組んだ。
三津も面と向かい合ってきちんと正座をした。
「あの…この前芝居小屋の近くで土方さんに見つかった時に見なかった事にして下さいってお願いして見逃してもらったんです…。
誰と会うのか問い質されても困るし誤魔化しきれる自信なくて…。
その代わり口止め料として一日だけ土方さんの小姓する事になって…。」
「なるほど…。気を使わせてしまって悪かったね。」
桂はしゅんとしてしまった三津ににじり寄って頭を撫でてやった。
「いえ,土方さんの要求がそれだけで助かりました。」
『それだけ?違うな,あの男がそれだけで終わらす筈がない。』土方歳三と言う男が三津に執着してるのは間違いない。
女中の代わりなんていくらでもいる。仕事さえこなせば誰だっていい。
小姓だって周りに優秀な隊士がいるはず。
『どうしても三津を傍に置いておきたい男が本当に置いておくだけで満足するか?否,しないな。』
「小姓と言えど,勿論寝る時は別だろ?」
「えっ!…とぉ。」
「本当に正直者だね…。」
三津の目が盛大に泳いだのを見てこっちも盛大に溜息をついた。
「布団は別です…。」
「当然だ。そんな事許さない。」
桂は三津を押し倒すと,嫉妬まじりの妖艶な笑みで見下ろした。
「…ご…ごめんなさい。」
「許さない。罰として一生懸命私を悦ばせて?」
こっちにも尽くしてもらわなきゃ納得出来ない。
「だから盆屋なんですね…。」
最初からこのつもりかと膨れっ面で見上げた。
見上げた先には何か企んだような笑顔がある。
「私の為に尽くしてもらおうか。」
「尽くすって言われても…。」