比較的人気の少ない通りに差し掛かった辺りで、桜司郎は口を開く。土方の奇行とも言えるそれについて聞きたかったのだ。
「副長、先程のは一体……」
そう問い掛けた瞬間、Bank Account Opening hong kong 土方はいきなり立ち止まる。その異変に気付いた桜司郎は、土方の視線の先を追った。
そこには前に立ちはだかるように女性が立っている。気の強そうな、柳腰の美しい人だった。
薄い青地に花を散りばめた鮮やかな着物に身を包み、流行りの唐人髷を結い、すっきりとした目鼻立ちを引き立てるような化粧を施している。
「歳三さま……」
その女性は土方の名を切なげに呼んだ。知り合いなのかと桜司郎は土方の横顔を見る。
旧知との再会にしては、神妙な顔付きだった。
「お琴さんじゃねえか……。何だって、こんな所に。偶然にしちゃ……」
「偶然ではありませんよ。試衛館からずっと付けさせて頂きました」
お琴、と呼ばれた女性は土方に近付く。
あの視線はやはり勘違いでは無かったと桜司郎は身構えた。
彼女は土方が姉のとくを通じて破談にさせた琴である。「最後に一言言いたくて。……本当に、破談になさるおつもりですか。あたしはいつでもお待ち差し上げると云うのに」
「……許せ。俺じゃなくて、他に幸せにしてくれる男を選んでくれ」
「あたしは、歳三さまに惚れてるんです。やっと来た連絡が破談だなんて酷すぎやしませんか……」
土方は返す言葉も見付からずに視線を落とす。琴は薄らと目に涙の幕を張ると、桜司郎を睨み付けた。
その視線には嫉妬の色が含まれており、男に向けるそれでは無い。
「……そこの女子に惚れたんですか。横に付けて歩くだなんて。だから、あたしの事はもう要らないと」
琴は躊躇なく、桜司郎を女子と断定した。桜司郎は何とか平静を装うが、背筋に嫌な汗をかく。
「何言ってんだ。こいつァ男だぜ」
土方は否定の言葉を口にするが、琴は譲らなかった。その脳裏には、小間物屋で簪を差された時の表情が浮かぶ。あれは間違いなく女子のものだった。
三味線屋の娘として、芸事には多く触れてきた。その中には歌舞伎やら浮世絵やら、男装をした女芸者やらと数々のものを見て目を肥やして来たのである。その自負が琴にはあった。
「いいえ、いいえ!この人は女子です。あたしには分かるんです。殿方の格好をして、歳三さまの傍に居るなんて図々しい……ッ!」
琴は綺麗な顔を歪め、恨みを込めた眼差しを桜司郎へ向ける。
桜司郎は蛇に睨まれた蛙のように足が竦んだ。
このように激しい恨みを向けられることに慣れておらず、その上秘密だった性別を確信を持って言い当てられたことに動揺が隠せない。
「……私は、男です」
「嘘吐くんじゃないよ、なら脱いで見せなさい。殿方なら出来るでしょうッ」
そう言うと、琴は桜司郎の着物へ手を伸ばそうとする。桜司郎はその手を振り払い、自身の着物を強く掴んだ。
「ほら、出来ないんだろう?それが何よりの証拠さ!この泥棒猫ッ……!」
そう言うと、琴は腕を振り上げる。そしてそのまま桜司郎の頬を平手で打った。
人通りが殆ど無いからこそ良かったものの、時折通る人が修羅場かと興味深そうにこちらを見てくる。
じんじんと痛み出す頬に手を当て、桜司郎は琴を見た。息を荒くして涙を流すその姿を見ると、本当に土方を想っていたということが分かる。
とばっちりながらも、同じ性別としては腹立たしさより痛ましさを感じた。"いつの時代も泣くのは女"なのだから。