蓮太郎はなにを考えているのかよくわからない目でこちらを見たあと言ってくる。
「襲わない。
安心しろ。
……その前にやることがあるから」
な、なにをするんですかっ?
と怯える唯由に蓮太郎は言った。
「よし、人生ゲームをしよう」
二人で向かい合って、畳の上に置いた人生ゲームをやる。
「これ、二人でやると、親子遊 ひとりが人生の勝者でひとりが敗者みたいな感じになりますね」
蓮太郎は盤上を見たまま、
「お前と俺とで、どっちが人生の勝者で敗者ってこともないけどな」
と言う。
ど、どういう意味なんですかねっ、と最初は気になっていたが、どちらもムキになる性格なので、いつの間にかゲームに夢中になっていた。
「てめっ、俺を5マスも戻したなっ」
「私が戻れと言ったわけではないですよ。
このマスの指示ではないですか」
はははは、と唯由は笑っていたが、あっという間に蓮太郎に追い抜かれ、蓮太郎は結婚することになった。
車のコマに蓮太郎は花嫁をのせようとしてやめる。 蓮太郎は唯由の車から唯由を引き抜いた。
自分の横にのせる。
「……ゲーム終わっちゃいますよ」
そうだな、と蓮太郎は二人の乗ったその車を見ながら呟いた。
「王様ゲームはもう終わりだ」
いつかの夢と同じことを蓮太郎が言ったので、ドキリとする。
もういりませんか?
もう愛人いりませんか?
もう愛人としてお側にいることもできませんか?
あなたが好きだと気がついたばかりなんですけど。
もう私、いりませんか……?
だが、蓮太郎はその車のコマを見つめたまま言う。
「俺は自分の野望のために、お前を愛人にしたかった。
ひいじいさんの逆鱗に触れて、後継者候補から外れたかった。
だが、お前は、ひいじいさんに気に入られてしまった。
その時点で、お前は用なしのはずだった」
あの……、心臓が止まりそうな言葉のチョイスやめてください、と思う唯由の前で、蓮太郎は車に乗った二人だけを見つめている。「でも、俺はお前との愛人契約を解消しようと思わなかった。
お前といたら、俺はすべてを失うんだろうなと思いながらも。
自由な生活も、研究者としての未来も俺の前から消え失せる」
でも……と蓮太郎は言った。
「でも、俺は俺の生きがいすべてを捨てても、お前といたいと願ってしまったんだ」
愛人はもういらない、と蓮太郎は言い、ようやく顔を上げた。
唯由を見つめる。
「俺と結婚してくれ。
それが俺の三つめの願いだ」
……だから、三つ叶えるって言ってません。
っていうか、まだその話、覚えてたんですか、と唯由は思う。
「そして、一生側にいてくれ。
それが四つめの願いだ」
いつ四つに増えたんですか……。 俯き、唯由は言った。
「あなたを好きだと、この間気づいたんです。
でも、愛人が好きとか言ったら困りますよねって思ってたんです」
なんでだ、と蓮太郎は言う。
「愛人だからいいだろう。
『愛する人』なんだから」
蓮太郎がゲーム越しに身を乗り出し、そっとキスしてきた。
「長い付き合いになるだろうから……
今夜は無理強いはしない」
そういうとこ、好きかな、と思いながら、唯由は涙ぐみ、
「……ありがとうございます」
と蓮太郎に礼を言った。
……が、
「無理強いしないって言いましたよねっ?」
「無理強いはしない」
「無理強いしてますよねっ?」
「無理強いはしていない。
その証拠に、お前の横に鈍器を置いている」
畳の上に組み敷かれた唯由が横を見ると、いつの間にか、床の間にあったはずの高そうな花瓶がそこにあった。
「これ以上は勘弁と思ったら、それで俺を殴れ」
「いやいやいやっ。
これで殴って割ったら、あなたが死ぬより早く、さんが怒鳴り込んでくる気がしますよ~っ」
朝、目を覚ました蓮太郎は、
「……悪い夢を見た」
と呟く。
「お前がかぼちゃに手を引かれ、連れ去られる夢を見た」
かぼちゃじゃなくて、かぼちゃの馬車では。
そして、かぼちゃの馬車は好きな人のところに連れていってくれるものなのでは……。
行くのなら、あなたのところでしょう、と唯由は思っていたが、恥ずかしいので言わなかった。
「私はあなたと人狼ゲームをして、斬殺される夢を見ました」
はじめての夜だったのに、ふたりとも、ロクな夢を見なかった。
だが、いつかはそれもいい思い出となるだろう――。
「今からやるか、人狼ゲーム」
「えっ?」
「俺は昨日、ほんとうは、人狼ゲームをやりたかったんだ。
だが、それでは告白するタイミングがつかめない気がして」
……確かに。
ものすごい荒んだ状態で告白されそうだ……と唯由は苦笑いする。
1. 無題