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keizo

「…江戸からの道中を

「…江戸からの道中を共にして思ったんだが、あの兄弟は良くも悪くも思ったことを直ぐに口にする だ」

 

母屋の軒先で永倉はそう言った。曲がった事が大嫌いで兄貴肌の永倉は、理不尽な物言いが許せないのだろう。

 

見た目だけで腕の善し悪しを決めつけるのは士道に反していると考えていた。

 

 

「兄の伊東の方は聖人気質だ、やたら慕われている。腹の底で何を考えているかは知れねえけどな。動態 紋 弟の三木の方は危なかっしいな…いつか何かやらかすぜ、アリャ」

 

「兄弟で性格が全然違うんですね。伊東さんも苦労していそうです」

 

 

伊東の先程の行動を思い返すと、頭を下げ慣れているようにと思える。

 

「そうだなァ。ああ見えて俺よりも歳上なんだが…情けねェぜ」

 

 

その発言にえ、と声が漏れた。永倉は齢にして二十五である。だが、大人びているせいか三十近くに見えていた。

 

「三木は二十七らしい。まァ、酒が好きらしいから盃でも酌み交わしゃあ、ちっとは腹の底が知れるかもな。じゃあ、俺も着替えてくるからよ。またな、

 

三木は童顔なのだろうか、態度も相俟って十代にしか見えない。

驚愕する桜司郎を他所に、永倉は再度頭を撫でては去っていった。

何処かで改名のことを聞いたのか、得意気にニヤリと笑っている。

 

「あ…はい!有難うございました」

 

その背に深々と頭を下げると、顔を上げて空を見た。随分陽が傾くのが早くなったと感じる。まさに晩秋という表現が正しかった。

ひんやりとした風が悪戯に吹き付けた。きっと京の冬は底冷えするのだろう、と目を細める。

 

 

「…もうすぐ冬だなあ」

 

そう呟くと、突然背後に人の気配を察した。

振り向こうとすると、肩にずっしりと重みを感じる。

 

 

「…何、てんだよッ!」

 

「重いって、八十八君ッ。何抱きついてんの!」

 

 

山野は背後から桜司郎におぶさるように抱き着いた。体格差があるため、よろけてしまいそうになるが、何とか踏ん張る。

 

 

「君…あんなに稽古してるのに、何か柔らかいな。菓子の食べ過ぎか?」

 

「こ、肥えやすい体質だから」

 

 

山野は桜司郎から離れると、顔を覗き込んだ。そして頬を摘む。

 

 

「ははッ、本当だ。頬が羽二重餅みたいだな」

 

「やめ、ちょ…!」

 

桜司郎は振り切ると、頬に手を当てた。山野を睨んでみるが、気にする様子はない。

 

 

「桜司郎がなかなか戻って来ないのが悪いんだぜ。な、まごっちゃん」

 

「う、うん…」

 

笑顔の山野に対して、馬越は桜司郎の顔色を伺うように頷いた。一方で、局長室では旅装束を解いた近藤、土方、山南、沖田、井上が集まっていた。

 

「近藤さん、久々の江戸はどうだった」

 

「ああ、もう既に懐かしいと思ってしまう自分がいたことに驚いたよ」

 

近藤は嬉しそうに目を細める。志を持って上京したとはいえ、やはり故郷の空気は何時になっても心地良かった。

 

 

「そうだな、此処での生活は良くも悪くも濃いからな。娘にも会えたんだろ?」

 

土方はフッと口元を緩めると、一昨年産まれた近藤の娘の存在を思い出す。

近藤にはツネという妻がおり、その間にたまという娘を授かっていた。

 

「ああ。もう二つだ。俺のことは知らないおやじといった反応だったがな。土産に、たんと玩具を買っていったことは良かった。それだけは喜ばれたよ」

 

 

そう話す近藤の横顔はすっかり父親のものであり、沖田はそれを不思議な気持ちで見る。

 

剣に生きると決めた自分が子を持つことは恐らく生涯無い。しかし、このように敬愛する近藤が喜んでいる姿を見ると、そんなにも自分の子とは良いものかと考えてしまった。

 

 

「良いなあ、おたまちゃん。私もまた会いたいです。まだ頬は餅のように柔らかいんだろうなァ」

 

「子はかすがいと言うからね、勇さんも気張って働かねェとだな」

 

沖田はニコニコと、井上は眩しそうに目尻を下げる。

 

 

「総司は女嫌いを直すところからだな。ガキが好きなら、自分のガキをこしらえりゃいいんだ」

 

「土方君、その事は……」

 

 

土方はニヤリと笑いながら言った。沖田の心の傷について触れるのは禁忌だが、土方だけはそうしなかった。

腫れ物に触るような扱いを好まない性格だからである。

 

その歯に衣着せぬ言い方を山南が咎めた。

 

 

「そうですね…」

 

脳裏には

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