そりゃ三津だって女子。少々の弱さは仕方ないことだと思っているのだが,
「それにしてもあいつは甘い。死体や晒し首が恐くて外を歩けず道が分からねぇって言いやがる。」
嫌な事から逃げている。tote bag 推薦 その姿勢が気に食わんと土方の表情は険しさを増す。
「それは…。もしかすると過去に何かあったんじゃないかい?それで外を歩けないってよっぽどだと思うよ?」
「無きにしも非ず。我々はまだ彼女のことをよく知らない。もっと知ってあげる必要があるのかもしれん。」
山南の言葉に近藤も深く頷いたが土方はあいつはそんな奥の深い奴じゃねぇと笑った。
土方の言いつけ通り夕餉は勝手に一人で済ませた。
巡察に向かう隊士たちも見送った。
女中の仕事を一段落させて,今は湯呑みを片手に縁側で一服中。
今は屯所内に笑い声やふざけあう声が響いてるがやがて寝静まり,完全に夜の闇に飲み込まれる。
その時を星空を見上げて待っていた。
縁側で足をぶらつかせながら秋の風を肌で感じる。
澄んだ空気に月も煌々と輝く。
『降って来そう。
もし落ちて来たらこの湯呑みで受け止められへんかな。…降って来る訳ないけど。』
そんな事を一人で考えてる時間が楽しい。
一人の時間の使い方は上手いと思う。
これだけ澄んだ空気を吸って綺麗な星空を見た。
今日はすんなり眠れるはず。
『昨日は土方さんが死体やの晒し首やの物騒な事言うから思い出してぐっすり眠れんかったし…。』
時を同じくして衝立の反対側で土方も眠れずにいたのには気付いていなかった。
その癖今朝の土方の寝起きがすこぶる悪かったのを根に持っていた。
「まだ起きてたか。」
噂をすれば何とやら。局長,副長方が揃ってご帰宅だ。
『今晩も寝れねぇのか?』
まさか自分の帰りを待っていた訳じゃあるまい。
近藤と山南にお帰りなさいと人懐っこい笑みを向ける三津を残してさっさと部屋へ引き上げた。
「ちょっとほったらかしなんて酷いじゃないですか!」
「何で先に寝なかった。」
すぐ後を追いかけて来た三津に脱いだ羽織りを押し付けた。
「何でって,ご飯は勝手に食べろって言いましたけど勝手に寝ていいとは言わなかったやないですか。」
「ああ…。すまん。」
丁寧に羽織りをたたんでいた三津の手が止まった。
驚きのあまり瞬きも忘れ,口も半開きで土方を見た。「今何て言いました?」
気の抜けた声で問い返したが土方は衝立の後ろに姿を隠してしまった。
「ねぇ何て言ったんですか?」
三津は聞き違いだったかもしれないと衝立の後ろを覗き込んだ。
「何も言ってねぇよ。空耳だ空耳。近藤さんは目を悪くしてお前は耳か。」
堂々と人の着替えを覗くなと軽く頭を小突いた。
正直あんなにすんなり謝罪の言葉を口にした自分に驚きを隠せない。
「えっ近藤さん目を悪くなさったんですか?」
土方の動揺には全く気付かず三津の注意が新たな話題にそれた。
三津が単純な奴で良かった。
「あぁ,お前のことを可愛いって言いやがった。ありゃもう見えてないぜ。きっとそこらのいたちと見間違えたに違いねぇ。」
『土方さんは口と性格をより悪くされましたね。』
とは言える訳もなく,
「どうせ可愛くなんてないですよ。いたちの方がよっぽど可愛いです。間違いありませんよ。」
かと言ってそこまで言われる筋合いもないと膨れっ面でたたんだ羽織りを箪笥にしまった。
『それが可愛くねぇってんだ。いつからそんなふてぶてしくなったんだよ。』
自分の悪影響とは思いもせず布団の上で寛いだ。
「いたちの方が可愛いならいたちを小姓にしたらどうですか?その辺の山で捕まえて来ますよ?」
傍にいるなら可愛い子の方がいいでしょ?
口を尖らせ横目で寛ぐ土方を睨んでみる。
「馬鹿,いたちに何が出来るんだよ。ただ可愛いけりゃいいってもんじゃねぇよ。」
早足で近寄ると、馬越の腕を掴んだ。
「ねえ、馬越君。危ないことはしていないよね。沖田先生や、忠さんに顔向け出来ないことはしていないよね……」
切なげな声色が馬越の鼓膜を叩く。ズキリと胸の奥が痛むが、それを誤魔化すように顔を逸らした。
桜司郎は更に言葉を続ける。
「どんな事情があって、生髮洗頭水 一番組を離れたのかは分からないけれど……。それでも、だから……!」
その言葉に、馬越の瞳は揺れた。漆黒の闇のように濁ったそれが、日を浴びた朝露のように光を宿す。
…………」
たった二文字の言葉が、酷く馬越の心を動揺させたのだ。
「そうだよ。組が違うからって、友情が消える訳じゃない。ねえ、またでお酒呑みに行こうよ」
「…………お酒、か。良いですね」
馬越は淡く微笑む。
その微笑み方には見覚えがあった。どこで見たものだろう、と桜司郎は小首を捻る。
そこへ突然馬越が振り向いた。
「……こ、こんな事言っても説得力が無いかもしれませんが。私を信じて下さい……。私は、絶対に二人を裏切ることはしませんから。今はそれしかお伝え出来ません」
それはまるで昔に戻ったかのように、穏やかな言葉だった。今までのことは夢なのではないかと思わせるような、友好的な笑みに桜司郎は無意識に頷く。 そこから数日のことである。土方より組長格の招集が掛かった。
桜司郎は沖田と共に副長室へ向かう。中へ入ると険しい表情を浮かべた近藤と土方が揃って座っていた。
用意された座布団の上へ次々と各組長が腰を降ろす。その前へ市村が茶を置いた。
「皆揃ったか……。斯様に皆が集まったのは久方振りだな」
近藤の言葉に、桜司郎は横目でその顔触れを確認する。だがある事に気付いた。この場に武田の姿が無いのである。
「時間も無い。俺から説明させて貰う……」
そこへ土方が口を開いた。昨夜は徹夜だったのか、目の下に隈を拵えており、いつもよりも凄みが増している。
「まずは……残留していた伊東派の隊士が、幕臣取り立てに反発して隊を脱したことは知っているな」
その言葉に室内はぴりりと張り詰めた。御陵衛士勢が分離した当初からこの流れは予想されていたことではある。帝を主君として据える尊皇攘夷派が、幕臣になることを拒んだ結果だった。二君に仕えることは心が許さなかったのだろう。
問題はその先だった。案の定、彼らは伊東の元へ駆け込んだが、約定がある為に合流を断られたという。そこでどうにも行かなくなったのか、があったのか、守護職屋敷へ脱退のための請願書を提出しに向かったらしい。
そこで彼らを引き取りに来るようにと、屯所宛てに達しがあった。出向いた近藤や土方らは言葉を尽くし、戻るようにと交渉に当たったという。
そこまで話すと、土方は苦々しく眉を寄せた。
「そんで……奴らはどうなったんだ?」
その続きを永倉が促す。
「奴ら、考えさせてくれと言って別室に移動したのだが……。そこで見事に割腹して果てていたよ」
帰れば切腹が待っている上に、頼みの綱だった伊東も会津も当てにならぬと絶望したのだろう。せめてものの抗議とも取れる行動だった。
「……そのうちの一人が、息の根が止まる前に何故か"武田先生を信じたのに"と恨み言を呟いていた」
「武田さんが絡んでるのか?ああ、だから呼ばなかったのかい」
武田はそう言うとニヤリと笑った。桜花は目を見開く。
そんな横暴が許されて良いのか、と思ったその時だった。ぴしゃりという小気味良い音と共に頬が熱くなる。
ジン…と右頬に痛みが走った。
「…身の程を弁えなさいな。VISANNE Watsons 副長助勤のこの武田が、下働きの貴方に目を掛けてやろうと言っているんですよ」
悔しさと恐怖で桜花は二の句が告げなくなる。
それを見た武田はふん、と鼻を鳴らした。
藤堂や斎藤、沖田も好みの顔をしているが、同じ立場である上に江戸出身で贔屓をされているため、手が出せない。やはり立場の低く気の弱い男が一番だ…。
そんな事を考えながら、武田は桜花へ近付く。
「や…やめて下さい」
「…まだ己の立場を理解していないようだな。私を怒らせるとどうなるか…試してみるか?」
低い声でそう言えば、桜花は更に身を固くした。
そこへ足音が近付いて来ることに武田は気付く。舌打ちをすると、素早く桜花から距離を離した。「鈴さん、こんなところに居ったんか〜!って武田さん、お取り込み中やったか?」
現れたのは松原と斎藤である。松原の坊主頭に太陽が差し込み、まるで仏のようだ。
「…何でも有りませんよ。離れ離れになってしまいますので、挨拶を…とね。そうでしょう、鈴木君…?」
武田は侮蔑の篭った視線を桜花に向ける。桜花は小さく頷いた。
武田はそのまま踵を返して去っていく。
気が抜けた桜花は座り込んでしまいそうになるが、何とか堪えた。
「鈴さん、大丈夫か。馬越に教えてもろたんや。何かされたか?」
あの時馬越は逃げたのではなく、対処をしてくれそうな上役を呼んでくれたのだと理解する。
「あ、りがとう…ございます…」
斎藤は桜花に近付くと、そっと手を伸ばした。桜花はびくりと目を瞑って顔を逸らす。夏だと云うのに冷たい手が右頬に触れた。
「頬…、腫れているが。叩かれたのか」
武田が去ったことを確認してから、その質問にそっと頷く。
松原と斎藤は顔を見合わせた。
「大方、思い通りにならぬと手を上げたのだろう。良ければ我々から副長へ報告しておくが」
その申し出に、桜花は首を横に振る。
何故ならと言うと、それは注意を受けるくらいで根本的な解決にはならないからだ。
むしろ逆恨みをされる可能性の方が高い。
「…油断していた私が悪いので。次からは二人にならないようにします」
「ほんまに大丈夫なんか。脅されてへんか?」
松原や斎藤と言えども、あの手の人物は下手に敵に回すと厄介だろう。
上司にはゴマをすり、部下や身分の低い者には玩具のように扱う。
「…はい。私もですから。でも助けて頂いて、有難うございます」
桜花は花の綻ぶような笑みを二人に向けた。斎藤は顔を赤くすると、顔を背ける。
「あ、ああ……。また何かあれば遠慮なく言うと良い。俺達にはあんたを新撰組へ引き込んだ責任がある故」
真面目な斎藤はそう言うと、何処かへ歩いていった。桜花は松原と共に皆のいる所へ戻る。
丁度近藤らが出立しようとしていた。
皆に手を振りながら、近藤は背を向けて歩いていく。
桜花はふと沖田の事が気になった。
また近藤と離れてしまうため、きっと寂しいのではないか。そう思ったのである。
見渡すと、沖田は端で立っていた。近藤を見詰めるその表情は悲しげな、羨ましそうな、そんな切ないものであった。
だがこの腫れた顔では心配を掛けてしまいかねない。
そう判断した桜花は沖田に駆け寄るのを諦め、見送ったら部屋に戻ろうと、それまで松原の隣にいることにした。
一方で、沖田は小さくなる近藤の背を見送りつつ、無意識のうちに桜花の姿を目で探していた。
「あ…」
を向けている副長に声をかけた。
すると、そのがおれへと転じる。
「主計……」
「はい?」
しっかりとがあった瞬間、副長がおれの名を呼んだ。
「いや、いい。鋸棕櫚 いってこい」
「なんなんです?おっしゃりかけてやめてしまうなんて、副長らしくありませんし、気になるじゃないですか」
「生意気いってんじゃねぇよ、主計。ほら、さっさといってこい。おいてゆかれるぞ」
「もう、理不尽なんですから」
苦笑してしまった。
ぜったいに、なにかいいたかったにちがいない。
立ち上がってからまた副長をみると、副長はを廊下へと戻している。
いいや。廊下へというよりかは、だれかの背をおっているって感じであろうか。
「はいはい。気になりすぎて仕方がないですが、いってまいります」
「主計、アイム・ルッキン・フォワード・トゥー・スべニア」
「なんで土産を買ってこなきゃならないんだ?もうどこの店もしまっているだろう」
副長は、おれの嫌味をスルーしたらしい。そのかわりに、現代っ子バイリンガルの野村が「土産を買ってこい」なんていってきた。
そのかれにいい返してから部屋をでた。さりげなく振り返って部屋のなかをみると、副長はぼーっと廊下のなにかをみつめている。
なにをいいたかったんだろう。
モヤモヤしつつ、永倉たちを追った。
永倉たちに追いついたのは、相棒を連れ、宿場町の通りをあるいているところであった。
『相棒を連れ』、というのは、俊春が相棒の綱を握ってという意味である。
しばし無言のまま、宿場町のはずれへとあゆみつづける。
通りの両脇に旅籠が並んでいるが、営業しているところでもひっそりとしている。呼び込みやら飯盛り女の誘いがまったくない。
宿場町の人々も、いまこの世のなかに起こっていることを察知し、肌に感じているのであろう。
とはいえ、現実的なところでは、お客さんの宿泊がなければ稼げないし、そもそも旅人の数が減っていては、宿場町じたい影響を受けているだろう。
戦はいろんなところにいろんな意味で影響を与える。もちろん、それで儲かったり潤ったりという職種や機関というのもあるだろう。が、そうでないケースのほうがはるかにおおいはずだ。
「でてくるときに、副長の様子がおかしかったんです」
あまりにも無言がつづいている。とりあえずなにかいっておかねばと、うしろからそういってみた。
「ああ、そうだろうな」
先頭をゆく永倉が、ただ一言そう応じた。「そうだろうなってどういう意味なんです?なにゆえ、それがわかるんですか?」
その謎解釈にツッコんでみた。すると、永倉と肩を並べる島田、それからおれのすぐまえを相棒とあるいている俊春が、同時にだけこちらへ向けてきた。
二人とも、同時に両肩をすくめる。
それは、おれ同様永倉の謎解釈がわからないという意味ではない。「わかってないなぁ」という、おれにたいして呆れかえっている意味のようである。
ふとだけこちらへ向けてきた。
二人とも、同時に両肩をすくめる。
それは、おれ同様永倉の謎解釈がわからないという意味ではない。「わかってないなぁ」という、おれにたいして呆れかえっている意味のようである。
ふとをおろすと、相棒も鼻面を器用にこちらへと向けている。があうと、いつものように「ふふふふん!」と鼻を鳴らした。
こちらは、いつもとおなじリアクションだ。
心のなかでため息をついてから、を前方にもどしてみる。島田はまえを向いているが、俊春はまだおれをみている。
「永倉先生が呼んだ面子だと、あきらかに副長のことを話したいがためだとわかるではないか。副長は、それに気がつかれた。ゆえに、気にされていらっしゃるわけだ」
俊春が教えてくれた。
なるほど……。
「利三郎もそれに気がついて、わざと副長を風呂に誘うというをしてくれたのだ」
俊春はつづける。
なんと……。
俊春まで「神対応」なんて言葉をつかってるし……。
「主計、そこじゃなかろう?そこは利三郎でさえ気がついているのか、とツッコむところではないのか?」
刹那、俊春がツッコんできた。
ええ。おっしゃるとおりです。
さすがは俊春である。お笑いも、かれにとってはさしてむずかしいスキルではないらしい。
そのとき、永倉が立ち止まった。すでに宿場町からでていて、左眼前に林らしきものが浮かび上がっている。
かれはそちらへと向きをかえ、またあるきはじめた。
副長について、そこで話をするらしい。
永倉は、ひときわぶっとくて高い木の幹のまえにくると、それに背中をあずけた。
見上げると、樹齢何年だろう、立派な栃ノ木である。さすがは、栃木県にある木である。もっとも、いまはまだ栃木県ではない。
この木は、将来廃藩置県でその名の由来となる木である。
「あらためて頼むまでもないが、土方さんのことを託したい」
永倉を囲むようにして居並ぶと、永倉がそうきりだした。
そのときになってやっと、原田も別れるその朝、おなじことを俊春とおれにいったことを思いだした。
そうだ。
の話だけではない。起こるはずのこと、たとえば会津藩や会津侯の行く末も含め、淡々と語った。
この場にいるだれもが息すらしていないのではないのか、というほど部屋の内は静かである。それをいうなら、開けっ放しになっている窓の外も静かである。外は、すでに暗くなっている。階下から、客引きや飯盛り女の声すら流れてこない。
百五十年後を経た現代でも、会津に住む人々は長州をよく思っていない。それほど、凄惨な戦であり、不遇の戦後であったというところで説明をおえた。
「くそっ!会津侯は、泰國生髮藥 あれだけ幕府にも朝廷にも尽力をつくしていたのに、か?」
燭台が立てるちりちりという音がやむと、副長がうなった。
そのあとは、また沈黙がおりた。
だれもが、会津藩の面々や会津侯のを思い浮かべているにちがいない。
さすがの野村も、口をとじてなにやらかんがえこんでいるようだ。
そんな暗ーい雰囲気のなか、仲居さんが障子の向こうにあらわれた。
ディナータイムである。
そのタイミングで、俊春が旅籠の人に頼んで相棒になにかやってくるとでていってしまった。
あ、いや。もちろん、それはおれの役目である。ゆえに、そう申しでた。が、俊春がソッコー拒否ったのである。
けっして、けっして、けっして、相棒につれなくされてる腹いせとか、おれたちの関係をあきらめているとか、ではない。
俊春といい合いになれば、おれが負けるにきまっている。その上、不利な状況を招くことになり、そうなると相棒にますます嫌われてしまう。
はぁぁぁぁぁ……。
溜息しかでてこない。
って悲嘆にくれるのと、腹具合は別物である。
飯に煮物にみそ汁に香の物という、オーソドックスな献立ではあるが、量がぱねぇし、なにより素朴でやさしい味である。
心静かに堪能した。
喰いしん坊さんたちも、飯はお櫃ごともってきてもらい、腹いっぱい喰った。
喰いおわった、俊春がもどってきた。
「旅籠の賄い人にぶっかけ飯をもらったので、にはそれを食していただいた」
部屋に入ってくるなり、俊春がマジなでいってきた。
「あの、なにもかもお世話していただいてありがとうございます」
こっちもマジなになるよう、懸命に努力してみる。には、いまから食後の腹ごなしをしていただこうと思うのだ……」
「ぶっちゃけ、ピーとプーだ」
またしてもマジにいう俊春にかぶせ、現代っ子バイリンガルの上に下品きわまりない野村が、餓鬼みたいに叫びつつうれしがっている。
「やめないか、利三郎。ったく、餓鬼みたいにうれしがるなよな」
幼稚園の先生のごとく、毅然と注意してしまった。
「ピーはですね、それからプーはですね」
野村のやつ、きいちゃいない。ケラケラ笑いながら、島田に解説している。
「薩摩の蔵屋敷で申していたな。よし、したぞ」
なんと、島田が指先で頭をたたきながら神対応している。
「副長、この旅籠の湯はよさそうです。客の姿もなく、いまなら一番風呂かもしれませぬ。旅塵を落とされてはいかがでしょうか」
俊春は、廊下にさっさとでてからそこに片膝ついてすすめている。
「おお、いいな……」
「ワオッ!ウィ・アー・スメルズ・ソー・バッド!さすがに、超絶くっさーって感じですよ。副長、背中を流します。ゆきましょう」
副長のよろこびの声にかぶせ、さらにうれしそうなの野村が、ピーやらプーやらの話題はそっちのけで、俄然はりきりだした。
ちぇっ!野村のやつ、風呂など好きじゃないくせに。
ヨイショってやつか?
そう野村に腐りつつ、自分の腕をあげて小者用のコスプレの衣裳のにおいをかいでみた。
うううううっ……。
くさすぎるー。
おれのは、フレーメン反応みたいになっているにちがいない。
「く、くっさー」
それから、声にだしてしまった。
「たしかに、これはひどいな」
永倉も島田も同様に、わがにおいに顔をしかめている。
「ならば、一番風呂は土方さんと利三郎にゆずって、おれたちはぽちと兼定とそこらをあるいてからひとっ風呂浴びるとしよう」
永倉のいきなりの提案である。それからかれは、副長がなにかいいかけるまえにさっさと部屋をで、廊下に控えている俊春をうながす。
「なにをしている。魁、主計、ゆくぞ」
そう声をかけると、廊下をあるいていってしまった。
「組長は、あいかわらずせっかちですな」
島田は苦笑しつつ、副長に一礼してからあとを追う。
「では副長、いってまいります」
廊下に