警備兵たちは、半次郎ちゃんに気がついたようだ。すぐに馬鹿笑いをやめ、姿勢を正してむかえた。
「晋介、警備ん邪魔をすっんじゃなか」
半次郎ちゃんは、一応いかめしいで従弟を叱る。
「半次郎ちゃん、地中海脫髮 邪魔をしちょるんじゃあいもはん。眠気覚ましに話をしちょっとじゃ」
別府はソッコーでいい返した。が、半次郎ちゃんはうなり声をあげただけで、とくになにもいわない。
おそらく、半次郎ちゃんは警備兵たちのまえで、『半次郎ちゃん攻撃』をされたくないっていうのもあるのであろう。プラス、従弟に弱いということもあるのかもしれない。
いい従兄弟どうしである。あらためてうらやましくなる。
従兄弟に会ったのは、小学校のに一度だけである。それも、挨拶だけである。いまとなっては、どころか名前もわからない。さらには、何人いるのかも。
かんがえてみれば、親父が死んでからほぼ天涯孤独状態である。親父の故郷に伯父伯母従兄弟はいる。が、親父の死を伝え、葬儀にきてもらって以降音信不通である。その葬儀ですら、おれは呆然としたなかでおこなわれ、いつの間にかおわっていた。ゆえに、親戚に挨拶をしたかどうかも覚えていない。
おれが現代からいなくなったことで、親類縁者に迷惑がかかっていなければいいのだが……。
「そんたっちゃんというとやったんか?」
表玄関へとむかいはじめると、野村がだれかにたずねている声が背にあたった。
「やるわけあいもはん」
それに応じたのは、まだ若い声である。気恥ずかし気なその声音が、篝火の届かぬ薄暗さのなかにふわふわ浮かんでいる。
とやったこっがなかど」
ちがうだれかがそう叫ぶと、いっせいにげらげら笑いだした。
いつの世も、男ばかりが集まるとこういう話になるんだな……。
ムダに感動してしまう。
「申しわけなか。をはなれてしばらく経つで、みんな溜まっちょっようじゃ」
半次郎ちゃんが、あるきつつだれにともなく謝罪した。
「そりゃそうだろうよ。聖人君子でないかぎり、だれだってとよろしくしたいって思うさ」
「土方さぁは、にもつっときいちょっ。じゃっで、島原界隈にも見張りを置いちょったど」
半次郎ちゃん、なんてことをいいだすんだ。
「またまた、桐野先生。桐野先生だってスミに置けないじゃないですか。京にいい
イケメンをより天狗にさせて、いったいどうするつもりなんだ?がいらっしゃったでしょう?」
だから、イケメンが口をひらくよりもはやく、半次郎ちゃんをからかった。
小指を立てつつ問うと、半次郎ちゃんは真っ赤になってうつむいてしまった。
の監察方は優秀ですから。ちゃんと調べてたんですよ」
副長が驚きのでこっちをみている。
ふふっ、ざまあみろ。
副長に向かって愛想笑いを浮かべつつ、心のなかでドヤ顔になる。
このことは、新撰組の監察方が調べたことではない。ウィキでしったことである。
かれのいいは、局長や永倉や原田のように芸妓ではない。京の四条にある煙管店の娘さんである。ウィキには二人で撮った写真も載っている。
監察方が調べそうなスクープであるから、そうしておこうと思っただけである。それに、副長を驚かせたかったってこともある。
「ねぇ、副長?」
そして、副長にふってみた。心のなかのドヤ顔も、いまはありありとでているだろう。
「あ、ああ。そういや、そうだったな」
副長は、自分の自慢話の腰を折られまくり、こっちをめっちゃにらみつけながらも話をあわせてきた。
「まっ、いいがいるだけまだましってもんだ。なぁ、主計?」
ちっ!やり返されてしまった。
はいはい。どうせおれはモテませんよ。
副長や双子といっしょにいるかぎり、おれのモテ期はやってはこないだろう。
玄関で軍靴を脱ぎ、廊下をあるきはじめると、副長が半次郎ちゃんの背に問いかけた。
「それで、そのとはそれっきりなのか?」
すると、半次郎ちゃんは歩をとめ、体ごとこちらへ向き直った。
俊春は相棒と一緒に庭のほうへまわるらしい。
ってか、本来はおれがいかなければならないんだが……。
「そうじゃなあ。いまんおいどんには、さぁんほうが大切じゃっで」
ぽつりと答えたその半次郎ちゃんのがジワる。
煙管店の娘さんのことが、よほど好きだったんだろう。
どっかのイケメンの火遊びとはちがい、マジな交際だったにちがいない。
って、また副長ににらまれてしまった。
「ああ。そのほうが半次郎ちゃんらしいな」
副長は、おれから半次郎ちゃんへとをもどしてから苦笑する。
たしかにそうかもしれない。
根っからの剣士は、女性にあまり興味がない。もちろん、男性にも。
「
「けつ、
で試すのが一番わかりやすいのですが、狭量なだれかさんのおかげで、それもかなわぬようでございます」
俊冬が、おれを非常識あつかいする。
「ふんっ!兼定の散歩係にしとくのも、もったいなくなってきちまったな」
副長の嫌味に、みな、同步放射化學治療 大笑いしている。
ってか、散歩係からの降格っていったい、なにになるんだろう?ってか、パワハラといじめにあってるおれって、なんていじらしくてかわいそうなんだ?
「いじらしくてかわいそうとは・・・」
「もうっ!だから、よまないでくださいって、たま」
よんでくる俊冬に怒鳴ってしまう。これではまるで、高校生カップルみたいだ。
「早朝、山へゆき、仕留めてまいりました。死んでいるとはいえ、死体を弄ぶのは気がひけますがのため、許してもらいましょう」
俊春がひっぱっている荷車の上には、猪が横たわっている。わりとおおきな猪だ。それをさっと狩ってくるとはさすがである。
急にアイスが食べたくなったからと、近所のコンビニで買ってきた的な俊冬。かれは荷車にちかよると、猪に掌をあわせる。
「あちらへ、ぽち。おまえも感じろ」
「はっ」
弟に命じると、俊春は荷車を向こうのほうへひっぱってゆく。距離は、100メートルほどか。スペンサー銃の有効射程距離はたしか200ヤード。つまり、180メートルほどである。その半分の距離である。
「主計の申す通り、スペンサー銃は使用する、、銃の性能、方式が異なるため、ほかの銃とは射程距離や威力がちがいます」
俊冬は説明しつつ、銃を構える。
100メートルほどさきに置かれている、荷車の上の猪。
俊春は、あろうことかその荷車のまえで片膝立ちしている。
俊冬は周囲をみまわし、万が一にもだれかがやってこないかを確認すると、さしてじっくり狙うわけでもなく、一発発射する。 荷車の上ではじけた。猪の一部が、である。ほぼ同時に、「ぱんっ!」とかわいた音が耳を打つ。
局長や副長をはじめとし、みなから感嘆のため息やうめきがもれる。子どもらも、
荷車の上ではじけた。猪の一部が、である。ほぼ同時に、「ぱんっ!」とかわいた音が耳を打つ。
局長や副長をはじめとし、みなから感嘆のため息やうめきがもれる。子どもらも、を「村正」で斬ろうというのか。
これから起こることを、全員が息をひそめて注目する。緊張と期待がないまぜになり、その集中力は半端ない。
俊冬の緊張が伝わってくる。これが死んだ猪や、紙に書いたような的であれば、さして狙う必要もなく命中させることができるはず。
現世であろうと異世界であろうと、最強の剣士にして最高の戦士である俊春ではあるが、かれはいま、耳がきこえず片方のがみえぬのである。健常ならできるであろうことも、いまはそうではない。失敗は、ソッコーで死につながる。
これもやはり、双子流のストイックな鍛錬なのであろうか。
「くーん」
おれの左脚のすぐうしろで、相棒も心配げにしている。
俊冬の今回の射撃スタイルは、スタンディングある。
このスタイルは、安定しないので射撃がしにくい。戦場では、立っているので敵に発見されやすく、全身をさらしているのでその分的としての面積もひろくなる。前進や後退しながらとか、射撃してすぐにその場から離れなければならないとか、そういった場面にしか向かないスタイルである。
もっとも、いまは戦場ではないし、プロの中のプロである俊冬は、そのかぎりではない。
そっとうかがうと、俊冬は頬を銃につけたまま瞼を閉じている。あまりの静けさに、かれが深く息を吸いこんでいるのがわかる。そして、前方にをうつすと、俊春もまた、腰をわずかに落として鯉口をきり、瞼をとじている。
たしか、七連発の元込め式といっていただろうか?ということは、残りは六発・・・。
呼吸がとまったと感じる間もなく、俊冬が連続でトリガーをひく。これは、だれのをうつすと、俊春もまた、腰をわずかに落として鯉口をきり、瞼をとじている。
たしか、七連発の元込め式といっていただろうか?ということは、残りは六発・・・。
呼吸がとまったと感じる間もなく、俊冬が連続でトリガーをひく。これは、だれの「たま。猪の頭部がなくなってしまいました」
俊春は、掌で荷車上の猪を示す。
「尻にしておけばよかった。頭部は、頭の上にのっけて敵に突進すれば、面白かったにちがいない」
「「鬼Oの刃」の伊O助かいっ!」
しみじみとつぶやく俊冬に、思わず突っ込む。
そういえば、あれもよんでいたコミックの一つであった。が、当然のことながら、途中でよめなくなった。そう思うと、つづきが気になってしまう。
それは兎も角、銃の威力よりそこか?
俊冬の感覚のズレというよりかは、ボケに徹する姿勢に、あらためて脅威を抱いてしまう。
「いや、これはすごいな」
「ああ。跡形もない」
みな、そんな双子にだいぶんと慣れてしまっている。そこはスルーし、猪を囲んで銃の威力を実感している。
「距離にもよりますが
子どもの田村の好奇心は兎も角、斎藤、なにゆえ喰いついてくる。先夜のおねぇの件といい、かれはいったいどうしてしまったんだ?
孤高の人斬りっていうイメージから、ますますかけはなれてしまう。
「露出狂というのは、自分の赤裸々な姿をみての病ですよ」
とりあえず、肺癌症状 遠まわしに表現しておく。
「ふーん」
田村の興味をなくしたような返事。
「ほう。具体的には?」
そして、ますます喰いつき気味の斎藤。
斎藤、やっぱおかしいよ、あんた。
「たいていは、男性がマッパ、もとい、ほぼ裸にちかい状態で女性にみせるのです」
「ああ、左之さんのように?」
京の伏見奉行所で、会津藩士たちと餅つき大会をおこなったことがある。その際、なにゆえか原田がマッパで餅つきをしようとし、杵をふりあげた瞬間にぎっくり腰になったのである。斎藤は、そのことをいっているのだ。
「まぁ、あのときには男性しかいませんでした・・・」
「左之さんは、島原でも吉原でも、それどころか町でも村でも、兎に角、もらいたいっていう、ちょっとしたにみせたがるのだ」
斎藤にはまだつづきがあった。
「ああ、腹部の切腹の痕ですよね?」
「ふむ。あれは、いわゆる前座だ。誠に真っ裸になりたがるのだ」
なにい?それって、完全に公序良俗違反じゃないか。
まぁ、原田らしいといえばそうだけど・・・。ということで、片付けておく。
「原田先生のは、じつに立派だからな。みせられた方も、眼福になるであろう」
それまで沈黙を護りぬいていた俊冬が、幾度もうなずきつつ謎納得している。
「ちょっ、俊冬殿。なにゆえ、そんなことをしっているんです?」
「なにゆえ?おいおい主計。やぼなことを尋ねるでない。さあ、鉄、銀。またせたな。できあがったぞ」
原田のおおきさを、なにゆえしっているのか?それについては語らず、謎だけを残す俊冬。
かれは、子どもらにやわらかい笑みとともに声をかける。掌にある服を、ひらひらさせながら。
「わー、ありがとうございます」
「着てもいいですか」
市村と田村は、飛び跳ね大喜びしている。
「無論。着方を教え・・・」
俊冬の答えがおわるまでもない。二人は得物を縁側に置くと、よそ様の庭先で着物を脱ぎすててしまった。
褌一丁になったところで、俊冬が苦笑まじりに服を着せてやる。
軍服である。
子どもたちでも着用できるよう、俊冬が大人用のをつくりなおしたのか・・・。
先日の甲州での戦の軍議中に、原田が冗談でプロポーズをしていたが、たしかに、家事全般が完璧な双子なら、嫁にって思いたくもなる。
「おれは、あとでいいですよ」
はしゃぐ子どもらを横目に、俊春に口の形をおおきくしてしらせる。
「面倒くさいやつだな、主計。まあ、よかろう。かえのシャツとズボンを用意しておくゆえ」
なんだかんだといいつつ、希望はかないそうである。
「おっ、似合うではないか」
「ほんとだ。似合っているぞ、二人とも」
斎藤とともに、子どもらをガン見してから感想を伝える。
二人の軍服姿。そこそこに映えている。会津候からいただいた金子で購入した得物を帯び、ばっちりきまっている。
「ありがとう、双子先生」
「これで、わたしたちも一人前に戦えますよね」
田村につづき、市村がいう。一人前に戦えるのかという点においては、局長も副長も許すわけはない。だが、一人前っぽくみえることはたしかである。「でっ、なにをねだろうとしていたんだ?」
そもそも、二人はなにかをねだろうとしていたのである。そのことを思いだし、尋ねてみる。
「寺に、飴売りがきているらしいのです。主計さんでも、飴くらいはおごってくれるかな、と」
田村のおねだりに、斎藤と双子が同時にふきだした。おれも相棒も、笑ってしまう。
「な、なにがおかしいのです?」
「い、いや。すまぬ、鉄。ついさきほど軍服を着、一人前に戦えると申したばかりだというのに、飴をねだるのかと」
くくくと笑いつつ、斎藤が代表して答える。
が真っ赤になっている。
みなでひとしきり笑った後、俊冬が口をひらく。
「さぞかしうまい、飴細工であろう」
「さよう。細工も味も抜群にちがいない」
飴細工?俊冬がそう断言し、俊春がつづける。
なにゆえ、飴細工と断言するのであろう。
「偉大なる隊士兼定の散歩係が、派手におごってくれるらしいですぞ、斎藤先生。われらも同道させていただきましょう」
俊冬が斎藤を誘う。
双子は、裁縫道具を丁寧に木箱になおしはじめる。
飴ときいて、単価は高くないと内心で思った。が、飴細工となると話はちがってくる。現代でも、芸術作品っぽいものだと高いはず。
相棒をみおろすと、きらきらした
が、瞬時にかわる。
手拭いを嗅がせ、準備万端。
「榎本艦長、急ぎますゆえ、これにて失礼いたします」
「釜次郎殿、心中お察しいたす」
榎本艦長のために心中で口ずさみながら、生髮 臭跡を開始する。がかかってる。頼むぞ」
相棒の 京街道を、とぼとぼとあゆむ兵士たち。
どの兵士もぼろぼろで、しかもよろよろしている。
前方に、肩を組み合い、互いを支えあっている二人連れがあらわれた。
「あれは・・・。たしか、おぬしらが五剣士と呼んでいた、会津武士ではないのか?」
おれたちと距離をおき、あゆんでいる俊春。かれの三本しか指のない掌が、その二人をさす。
「山川さんと、高崎さんですよ」
ともに、無外流の皆伝。会津藩の凄腕の剣士たち。
さきの御前試合で、山川は局長に、高崎は永倉に敗れ去った。そして、先日の沖田対俊春の前座試合では、俊春にいいようにあしらわれていた。「大丈夫ですか?」
慌ててちかづくと、二人も気がついたらしい。
「おお・・・、新撰組の・・・」
ギリギリの状態っぽい。二人いっしょにド派手によろめく。
俊春とともに支えてやる。
「これはひどい・・・」
俊春の合図で、二人を道の脇に横たえさせる。
鎧か胴かつけていたとしても、道中で脱ぎ捨てたに違いない。着物と袴姿で、どちらも血まみれである。
俊春がさっと傷をあらためる。懐から晒をとりだすと、止血し、巻いてやる。
ちゃんと準備しているんだ。
「お二方、どちらも致命傷ではありませぬが、血がかなり失われています。止血しましたが、はやく手当てをしてもらうにこしたことはない。動けるうちに、城へ。ここからであれば、さほど遠くはありませぬ」
俊春の言葉に、二人ともかろうじて頷く。
「申し訳ありません。送りたいのですが、われわれも仲間を探しにゆく途中でして・・・」
俊春のあとをつぐ。
自力でゆけ、なんて酷すぎる。が、送ってゆく暇はない。「われらのことは、気にするな。これだけやってくれたのだ。あとはなんとか・・・。それよりも、山崎君・・・」
高崎は途中で咳き込み、山川があとを継ぐ。
「なんでも、まだ隊士がいるとかで・・・。すくなくとも、われわれはみておらぬ。新撰組の隊士で最後にみたのは、陰険な顔つきの小男であった。たいした傷でもなく、われらが会津藩士であることに気がついても、せせら笑ってとっとといってしまった。それ以降は、みておらぬ・・・。すぐそこまで、敵が追ってきておる」
いっきにまくしたて、咳き込む。
「まだおったとしても、到底間に合わぬ。いっても無駄だと、止めたのだが・・・。兎に角、はやくゆけ」
喘ぐようにいう、高崎。
俊春がすぐに動き、まだマシっぽい敗走兵の一団をみつけてきた。
どこの者ともしれぬその一団に、二人を託す。
別れ際、二人に礼をいい、みおくる間もなく臭跡を再開する。「相棒、がんばってくれ」
相棒は、地面にぴたりと鼻をつけ、ぐんぐん進む。
いまは、この方法をとるしかない。確実でもある。
「どういうことだと思います?ってか、なにゆえ、かようにはなれているのです?」
またしても、俊春はおれたちと距離をおいている。
「静かにしてくれぬか?集中できぬ。兼定は、山崎先生を。わたしは、それ以外の動向を探っておる。耳朶と鼻でな・・・。たしかに、敵の軍勢はちかいようだ」
わずかな黴のにおいも嗅ぎとる男、俊春。くわえて、耳までいい。
隣人になったら、生活音、生活臭、すべてにおいて気を遣わねばならない。
勘弁してくれって、タイプである。
「俊春殿、さきほどのお二人の話・・・。陰険な顔つきの小男って・・・。その隊士が、逃げ遅れてる隊士がいるって、告げたのではないでしょうか?」
「なにゆえ、偽りを申す?もしかすると、敵が迫っていることに、気がついておらぬのやもしれぬ。あるいは、誠に隊士が取り残されているのやも・・・」
俊春のいうとおり。が、重傷の高崎と山川を、にやにや笑ってみ捨てるというところが、悪意に満ちている。
「その陰険な顔つきの隊士だが、それがだれかは、わたしたちはわかっている。だが、ここで邪推していてもはじまらぬ。いまは、山崎先生と鳶に会うことだけに、専念すべきではないか?」
いちいちもっとも。
無言で頷き、気合を入れなおす。
綱を、握りなおす。
相棒にも、伝わっているはず・・・。
よう?」
副長の嫌味に、原田は力のない笑みを浮かべそうになり、「いたた」とうめく。
「馬鹿はほっといて、さっさと餅をついちまえ」
「承知」は、いろんな意味でいろんなことに慣れている。副長の鶴の一声で、なにごともなかったかのように餅つき大会を再開する。
心やさしい会津人たちは、公司秘書 https://www.easycorp.com.hk/zh/secretary
成立離岸公司 心配げに原田をみつめている。
「なにもなかった。みな、なにもみなかった。おこらなかった」
副長が、神保に耳打ちする。すると、神保が藩士たちにそう告げる。
藩士たちは、ビミョーなでつづきに戻る。
双子の処置がよかったのか、原田はさらしを腰にガチにまかれ、夕刻にはそろそろあるくことができるようになった。
軽かったのであろう。ふだんから運動量も違うし、背筋力も抜群に違いない。
『餅つきでぎっくり腰になった男』
『死に損ね』につぐ、あらたな二つ名。
うり言葉にかい言葉からの切腹パフォーマンスで、し損ねて腹に一文字傷が残り、ネーミングされた名。
餅つきをしようとして、ぎっくり腰に。しかも、無駄にマッパで・・・。
どちらがマシか、いうまでもない。
もっとも、どっちもろくな理由ではないが。 慶応四年(1868年)一月三日、開戦。
鳥羽・伏見の戦いをかわきりに、翌明治二年(1869年)五月まで、戦いはつづく。
戊辰戦争である。
はじまりは、鳥羽街道の小枝橋付近。
大目付率いる幕府軍が、鳥羽街道を封鎖する薩摩藩と押し問答状態になり、不意打ちを喰らう。
薩摩藩は、準備万端。てぐすねひいてまちかまえていた。
が、幕府側は危機管理に乏しすぎ、油断しすぎた。 伏見は、鳥羽街道のあおりをもろに受け、あっというまに戦地と化す。
大人たちが必死に戦っているなか、子どもらは怖いのを我慢し、会津藩の賄方らの手伝いをしている。
薩摩藩が陣取る御香宮神社から、容赦なく砲弾が飛んでくる。
そのたび、子どもらは上げそうになる悲鳴を必死で呑み込み、不器用な手つきでおむすびを握る。
副長には、奉行所が壊滅すること、潰走せざる状況になることを伝えた。
ゆえに、決断ははやい。
各地に散っている隊士や会津藩士たちに、召集をかける。のおおくは、頭部に鉢金を巻き、体躯には防具を、手脚には手甲脚絆という格好。
会津藩士のなかには、時代祭りかコスプレかとみまがうような、鎧兜をガチに装着している者がすくなくない。
すでに、カッコで負けている。
わかってはいるが、機能性、利便性において差がありすぎる。
いろんな形にビミョーな色具合、さらにはきわどい味加減の、子どもらメイドのおむすびをほおばる。
相棒も、おむすびをぺろりとたいらげる。
「おいおい、おむすびには沢庵だろうが、ええ?」というようなで、みてくる。
「そういや、砲撃がぴたりと止まったな」
永倉の言葉に、全員が御香宮神社の方角へとで、みてくる。
「そういや、砲撃がぴたりと止まったな」
永倉の言葉に、全員が御香宮神社の方角へとをはしらせる。
「ああ、双子かもな」
副長は、指先についた米粒をぺろりとなめながら応じる。
「あっ副長、ほっぺに・・・」
副長の右頬に、米粒がへばりついている。
それに気が付き、掌を伸ばしかける。
「土方さん、餓鬼みたいだな」
秒の差で、原田が自分の舌で、舌で、舌で、ぺろりとなめとってしまう。
なにゆえだ、原田?おれがさきに気が付いたのに・・・。
腰を蹴ってやろうか、と悪魔チックなことを考えてしまう。
「どんどん腐隊士化しているではないか、と申しておる」
背後から囁かれ、スラングを叫んでしまう。
その場にいる全員が、白い